
【クルマのメカニズム進化論 Vol.3】ヘッドライト編
初期の自動車は石油ランプを用いていた。それがアセチレンランプへと変わり、やがて電気式前照灯の時代へと入り、目覚ましい進化を遂げた。精密な配光が可能なLEDの先にレーザーの時代が見えてきた。
※この記事は、オートメカニック2019年1月号の企画記事を再編集したものです。
●文:オートメカニック車編集部
1900年初頭、石油ランプからアセチレンランプへ進化
ガソリンエンジンを搭載した自動車が実用化された初期の時代は石油ランプが用いられていた。1900年代に入ると炭化カルシウムと水を反応させて、発生するアセチレンガスを燃焼させて光を得るアセチレンランプが用いられるようになった。
1879年、エジソンが白熱電球の実用化への道を開いた。開発当時は寿命が短いものだったが、1920年代に入って自動車用として採用されるようになった。それ以後、自動車の前照灯は電気の時代に突入する。
白熱電球を用いる前照灯は組み立て型、セミシールド型、シールド型へと進化していく。組み立て型は金属製のボディを持ち、レンズを前面に配置したものだが、雨、埃の侵入を完全に遮断することはできなかった。セミシールド型はそれを進化させたもので、1950年代まで用いられた。
エジソンによって発熱電球が実用化へと導かれた。これ以後、ヘッドライトや自動車用照明は電気の時代へと変わっていく。写真は1930年に製造されたメルセデス。
組み立て式ライトは埃や雨の影響を受けた。それを回避するために開発されたのがシールドライト。セミシールドから始まり、オールグラスのシールドライトへと進化する。
シールドビームの時代 組み立て式からオールグラスへ
次に登場したのはオールグラス製の完全なシールド型だった。雨や埃を遮断し、性能にも優れた。アメリカで実用化が始まったものだが、国内では東芝が1955年にオールグラスシールドビームの製造を開始した。少し遡るが、国産ということでは1936年、トヨダAA型には小糸製作所製の組み立て型が採用されていた。
1960年代に入るとヨーロッパでハロゲンバルブを用いるライトが登場する。シールドビームに対して高寿命、高輝度という優れた特性を持っていた。1970年代に入ると国内にもハロゲンライトが導入される。しかしメーカーの標準装備ではなく、ヨーロッパから輸入されたライトがラリーなどのモータースポーツで使用されたり、一部のマニアが換装して使用したものだった。ハロゲンの優位性が知られるとともに、国産メーカーも参入し、次第に製造ラインで装着される標準ライトへと変わっていった。
1990年代に入るとHIDが登場する。高い耐久性と、高い輝度を持つのが大きな特徴だった。次に登場したのがLED。LED自体は弱い光源で、遠くにも光が届きにくい。しかし光源を複数設け、高輝度化することによって、十分な光を遠くまで到達させられるようになる。このライトは小糸製作所が世界に先駆けて開発し、2007年、レクサスLS600hに搭載された。これ以後、世界の上級車のヘッドライトはLED化へと舵を切る。
LEDの進化のスピードは速いものだった。世界初のレクサスの光源の数は3個だったが、2013年に発表されたアウディA8は片側25個、その5年後に発売されたA8の最新型は片側で32個も備えている。
多数の光源がもたらすのは、明るさだけでなく、それを制御することによって、様々なパターンの照射が可能になるということだ。一部の照射を遮断することによって、ハイビームのままでも対向車や人に幻惑を与えないようできる。
アウディA8の旧モデルに採用されていたLEDライト。多数の光源を持つことが大きな特徴で、10億パターンの照射が可能だった。新世代ライトのパイオニアの一台だった。
新しいライトの時代照射に加え情報提供へ
ADB(可変配光システム)といわれるこの手法は、最初は光を遮断するシェードを用いていたが、デジタル制御に変わり、縦型のマトリクスだけでなく、上下、左右の細かい照射制御が行われるようになった。
デジタル制御は前方照射だけでなく、表示装置としても機能する。雨や霧の時に仮想の走行ラインを照射したり、カメラで捉えた交通標識を道路の手前のドライバーの見やすい部分に照射することも可能になる。レーザーライトの登場ももう一つの進化だ。LEDよりも鮮明に光を遠くまで飛ばす。BMWi8とアウディR8が同時期に取り入れ、BMW7シリーズがそれに続いた。
石油ランプから始まった自動車用前照灯は、照らすだけでなく、様々な道路情報を示すビジュアルサポート機器へと変わっていくだろう。
次世代の光源として登場したのがレーザーライト。遠くまで鮮明な照射が可能となった。BMWi8が世界に先駆けて採用し、アウディR8も続いた。
最新のアウディA8は片側32個のLEDを持ち、さらにレーザースポットライトを備える。LEDハイビームの2倍の照射距離を持つという。
多くの光源を制御することによって縦方向だけでなく、左右、上下の細部など広範囲にわたって自由に照射エリアを設定できるようになった。図はダイムラーが示した未来予想。対向車や前走車の直前までも照らすことを追求している。
最新のライトはマトリクス機能だけでなく、路面へのビジュアル照射も可能になった。見えにくい車線を仮想表示したり、周辺の標識をカメラで捉え、それと同類のものを路面に表示させることも可能になった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(大人気商品)
侮るなかれ、さまざまな効果が得られる空力パーツ 先日、知り合いからユニークなカーグッズを紹介された。細長いプラスチックパーツが12個並べられているパッケージ。一見すると、どんな用途でどのように使用する[…]
夏の猛暑も怖くない、ロール式サンシェードが作る快適空間 夏のドライブで誰もが感じる悩みは、車内の暑さだ。炎天下に駐車すれば、シートやダッシュボード、ハンドルが触れないほど熱くなる。さらに紫外線による内[…]
座るだけでクールダウン 夏のドライブが快適になる最新カーシート 夏の車内は、ただでさえ暑い。長時間の運転や渋滞に巻き込まれたとき、背中やお尻の蒸れが不快感を倍増させる。そんな夏の悩みを一気に解消するの[…]
引っ張るだけでOK、瞬時にセット完了 ロール式サンシェードの最大の魅力は、その操作の簡単さにある。取り付けは非常にシンプルで、工具も必要なくサンバイザーに専用パーツを固定するだけ。その状態でロール部分[…]
奥まで届く薄型設計で内窓掃除が快適に 近年の車はフロントガラスの傾斜が鋭角になり、従来の内窓ワイパーでは掃除しづらいケースが増えている。特にプリウスなど一部車種ではダッシュボード付近に大きなモニターや[…]
最新の関連記事(ニュース)
アストンマーティンとeggがタッグした究極のベビーカー 英国のゲイドンから、自動車産業と育児用品業界に新たな潮流を告げるニュースが届いた。英国が誇るラグジュアリーブランドであるアストンマーティンと、同[…]
AOGとは? 湘南の意味は? どんな特徴があるの? ちなみにAOGとは「オーテック・オーナーズ・グループ」の略だ。そしてオーテックとは、日産のカスタマイズ・ブランドであり、それを実施する湘南に本拠を構[…]
SUBARUとSTIが共同開発した、走る愉しさを追求したコンプリートカー 今回導入される特別仕様車「STI Sport TYPE RA」は、水平対向エンジンを搭載したFRレイアウトのピュアスポーツカー[…]
キャブオーバー から決別することで、ハイエースの運転席はどう変わる? まず、注目して欲しいのがプラットフォームの変化ぶり。お披露目されたハイエースコンセプトは、前輪の位置が運転席よりも前にある、新規開[…]
オールラウンドとして活躍できる「生涯のパートナー」を目指し開発 ハイラックスは、1968年のデビュー以来、世界195カ国以上で信頼と耐久性の象徴として顧客の信頼を得てきたピックアップトラック。 第9世[…]
人気記事ランキング(全体)
外したければ、「壊す」しかない HRPナット&ボルト HRPナットは、取り外し防止用フランジ付きナットだ。一見では普通のフランジ(鍔)付きナットだが、下の方に斜めの山がある。この形状のおかげで、右回し[…]
家庭用エアコンで、夏バテも心配いらず 今回紹介するレクヴィのハイエースキャンパーは、取り回しの良いナローボディ・ハイルーフ車をベースに仕立てた車両で、「ペットと旅するキャンピングカー」というコンセプト[…]
多様なパワートレーンとプラットフォーム戦略 TMS2025で公開されたトヨタ カローラ コンセプトは、従来の「生活に溶け込んだクルマ」というカローラのイメージを刷新する、低く伸びやかなボンネットと鋭利[…]
メンテナンスフリー化が進むが、それでも点検はしておきたい 今回は、エンジンメンテのベーシックレベル、スパークプラグについて解説していこう。プラグメーカーによると、その寿命は2~3万kmが目安とのコト。[…]
AOGとは? 湘南の意味は? どんな特徴があるの? ちなみにAOGとは「オーテック・オーナーズ・グループ」の略だ。そしてオーテックとは、日産のカスタマイズ・ブランドであり、それを実施する湘南に本拠を構[…]
最新の投稿記事(全体)
アストンマーティンとeggがタッグした究極のベビーカー 英国のゲイドンから、自動車産業と育児用品業界に新たな潮流を告げるニュースが届いた。英国が誇るラグジュアリーブランドであるアストンマーティンと、同[…]
ホンダ ヴェゼル価格:275万8800〜396万8800円登場年月:2021年4月(最新改良:2025年10月) 値引きを引き締めを装うが、しっかりと手順を踏めば25万円オーバーは狙える 一部改良後の[…]
骨盤の角度と脊椎のカーブを正しく保つ、理想的なシーティング状態が可能 株式会社加地は、2011年から自動車用クッション「ハグドライブシリーズ」を展開しており、同製品は腰痛に悩むプロドライバーから一般ユ[…]
人気のロンジチュードをベース車に100台限定で発売 ベースとなるジープ コンパスのロンジチュードは、都市部からアウトドアまで幅広く溶け込む洗練されたデザインと充実した機能が与えられた、コンパスの人気グ[…]
車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推し進めている「RVパーク」とは「より安全・安心・快適なくるま旅」をキャンピングカーなどで自動車旅行を楽しんでいるユーザー[…]
- 1
- 2



































