
トヨタが開発を進める水素エンジン技術。その最新成果として、カローラクロスをベースにした水素燃焼エンジン車の試作車が公開され、試乗する機会を得た。見た目は量産車そのままながら、水素ならではの滑らかな走りと扱いやすさが印象的だった。その実力と可能性をお伝えしよう。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:奥隅圭之/月刊自家用車編集部
実用段階に近づいたと感じさせる走りの質感
トヨタが水素エンジンを搭載したカローラクロスの試作車を公開し、試乗する機会を得た。水素燃料で走るクルマはこれまでも触れてきたが、今回の車両は”実用にかなり近づいた段階“にあると感じられる内容だった。
鮮やかなH2グラフィックをまとう試作車。試乗車はナンバリングされ複数台あり単色の試乗車も用意された。
搭載されているエンジンは、G16水素エンジン。S耐(スーパー耐久シリーズ)で鍛えられたもので、最高出力は約150kWとカローラクロス向けにデチューンされている。組み合わされるトランスミッションは8速AT(GR-DAT)だ。水素タンクは車体前後に2本配置され、合計171Lを搭載する。ラゲッジスペースについても、パッケージングの工夫でノーマルモデルと同等の容量が確保されている。
走行フィールは軽快でスムーズ。水素エンジン車ながら普段使いのSUVとして成立する完成度だ。
この水素エンジンカローラクロスは、2022年に2個の水素タンクを搭載した現実的な水素エンジン車として世界初公開となったが、そこから水素インジェクタをS耐仕様の最新型への換装などを行い進化してきた。
水素タンクを工夫して配置し、ガソリン(ノーマル)車同等のラゲッジスペースを確保。
今回試乗した最新モデルはS耐を走る液体水素エンジンGRカローラで導入した燃焼切り替え技術を搭載した最新版だ。これは、高出力が得られるストイキ燃焼と、低燃費での走行が可能なリーン燃焼をドライバーのアクセル操作に応じて自動的に切り替える技術である。
特設コースを2周という条件での試乗だったが、感覚的にアイドリングがやや高めに感じられる以外は、音や振動はガソリン車とほとんど変わらず、良い意味で”普通“の印象だ。アクセルに軽く触れるとスッと前に出て、水素という燃料を意識させられる場面は全くない。
1.6L直列3気筒エンジンをベースに開発されたG16水素エンジン。最高出力は150kW。
同乗したエンジニア氏の指示で低速域でストイキとリーンの切り替わる瞬間を体感しようとしたが、アクセルのオン/オフではほとんど体感できず、センターディスプレイの専用表示でようやくわかる状況。それだけスムーズに切り替わっている。
センターディスプレイに燃焼状態を可視化する表示を採用。ストイキとリーン制御の切替を確認できる。
続いて2周目は、アクセルを強く踏み込みフル加速したが、水素エンジン独特のディーゼルエンジンにも似たサウンドで力強く加速していく。
2023年に開催されたトヨタテクニカルワークショップで試乗したレクサスLXベースの水素エンジン試作車に比べるとスムーズさが段違いに進化している。
ハンドリングやブレーキフィールもノーマルのカローラクロスに近く、操作面で特別な注意が必要になることはない。現在、大型化された171Lの水素タンクで認可を取得中で、いずれ公道でのテストが始まるはずだ。
トヨタは電動化だけでなく、地域や用途に合わせて複数のパワートレーンを展開する”マルチパスウェイ“を掲げている。水素エンジンはその中のひとつの大きな柱。既存のガソリンエンジンをベースに、水素タンクや水素インジェクタなどの追加という最小限の変更で、内燃機関の良さを残しながら環境負荷を下げることができるのだ。
しかし、ここまで自然に走れて室内空間の実用性も十分、日常の移動に問題なく使えそうなレベルまで来ていることは大きな進歩だ。水素エンジンを「遠い未来の技術」ではなく「手が届き始めた現実的な選択肢」として捉えられるようになってきた。
わずかな段差はあるが、タンクを収めつつフラットな床面を確保。ノーマルモデルに近い荷室スペースを実現した。
今回の水素エンジンカローラクロスは、その未来像を具体的な形で示した一台だった。量産化までの道のりはまだ長いが、実用へ向けた確かな前進を感じられる内容だった。
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