「へぇ〜、空港でよく見かけるけど、こんな役割があったんだね!」大型旅客機の運行を支える働き者! トーンイング・トラクター 【シリーズ:はたらくクルマ】│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

「へぇ〜、空港でよく見かけるけど、こんな役割があったんだね!」大型旅客機の運行を支える働き者! トーンイング・トラクター 【シリーズ:はたらくクルマ】

「へぇ〜、空港でよく見かけるけど、こんな役割があったんだね!」大型旅客機の運行を支える働き者! トーンイング・トラクター 【シリーズ:はたらくクルマ】

飛行機に乗って旅をする。その時、多くの乗客が最も強く印象づけられるのは、巨大で力強く、そして人間を空へといざなう旅客機という存在だ。しかし、実際のところ、そうした空の旅は旅客機だけで成り立っているのではない。それをサポートする数多くの“はたらくくるま”があってこそ。乗客の荷物を旅客機に搭載する。後退できない旅客機を誘導路まで移動させる。エンジンが停止した旅客機に給油・給電する。パッセンジャーボーディングブリッジ(以下:PBB)を接続できない駐機場に停まった旅客機までランプバスで乗客を連れてゆくこともある。そうした旅客機と乗客の世話をやく“はたらくくるま”が空港には数多く存在するのだ。
※この記事は、オートメカニック2020年9月号で掲載したものです

●文・写真:鈴木ケンイチ(オートメカニック編集部)

空港でよく見かけるこのクルマ。これなくしては、旅客機のスムーズな運行はできない。

空港で働く3種類のトーイング・トラクターに注目!

空港で見かける“はたらくくるま”の多くは、旅客機の下部に潜り込む車高が低いものや、作業台の昇降機能を伴ったものなど、作業特性に応じた独特のスタイルをしている。今回、取材したJALのグランドハンドリング業務を担うJALグランドサービス(以下:JGS)の場合、羽田空港だけでも数百台規模の“はたらくくるま”を運用しているという。

さまざまな用途に沿ったクルマが存在するが、今回は、3種類の「トーイング・トラクター」を紹介しよう。 “トーイング”とは、牽引を意味するが、旅客機の移動は引っ張るだけでなく押すこともある。押す時は、旅客機をトーイング・トラクターで後退させるためプッシュバックと呼ぶ。

空港でよく見かけるトーイング・トラクター。飛行機の発着の際には必要不可欠なクルマなのだ。

旅客機の移動を補助する力持ち。”トーバー”を使わない「トーバーレス・トーイング・トラクター」

そして、トーイング・トラクターが旅客機を押し引きする時のアプローチも2種類ある。ひとつがトーバーという鉄製の牽引棒の器材を使う方法。もうひとつが旅客機の前輪を抱え込むというもの。抱え込む手法は比較的に新しいため、従来のトーバーを使わないという意味で、トーバーレス・トーイング・トラクターと呼ばれているのだ。

ちなみに3種類のトーイング・トラクターを役割に応じた呼称にするため、作業の現場では、旅客機を牽引するトラクターのことを「トーイングカー」、そして手荷物・貨物を運搬するトラクターを「トーイング・トラクター」と呼んでいる。

最初に紹介するのは、「トーバーレス・トーイング・トラクター」。その仕事は旅客機の移動サポートだ。旅客機は地上でも、自身のエンジンを使って前進走行が可能だ。しかし、後退ができない。乗客を乗り降りさせるために駐機場に前進しながら近づくことはできるが、自力で駐機場を離れることはできないのだ。

そこでトーイング・トラクターの出番となる。ここで紹介するトーバーレス・トーイング・トラクターは名称にもあるように“トーバー”を使わない。その代わりに旅客機の前輪を抱え込むように車体後部にドッキングして旅客機を動かすのだ。また、エンジンを停止した旅客機に電気を供給するのも、トーイング・トラクターの仕事。そのために移動用エンジンだけでなく、もうひとつの発電用エンジンが搭載されている、というのは意外と知られていない。

JGSでは羽田空港に4種類、計16台のトーバーレス・トーイング・トラクターを運用している。今回取材したのは、KALMAR社のTBL190という車両だ。KALMAR社は北欧の重機メーカーでサイズの異なるトーバーレス・トーイング・トラクターやトーバーを使うタイプのトーイング・トラクターをラインナップしている(2020年当時)。TBL190は最大級モデルではないが、ラインナップ中では大型に属するものだ。

 運転方法の説明を聞くと操作はシンプルそのもの。ハンドルと2ペダル(アクセル&ブレーキ)、変速のためのシフトノブ。これにウインカーとワイパー、ライトのスイッチ。クルマそのままだ。特殊な操作系は、旅客機の前輪とのドッキングのためのレバー、そして座席の回転用のスイッチだ。このTBL190は、旅客機を押して後退させる(プッシュバック)時に、運転席が座席とハンドルごと反転するのだ。

操作はシンプルだが、思ったように動かすのは、また違った難しさがあるらしい。全長に対してホイールベースが非常に短く、しかも運転席が異常なまでに前方にある。クイックに曲がるため、独特の運転感覚となる。もちろん、運転するにはJALの社内資格が必要とされる。しかし、旅客機の移動は、10センチ単位で精密に動かさなければならない。そのため、乗客の乗った旅客機を上手に動かせるようになるには、最低でも5年以上の経験が必要になるらしい。

旅客機の前輪とドッキングして移動するトーバーレス・トーイング・トラクター。

トーバーレス・トーイング・トラクター(KALMAR TBL190)

KALMAR TBL190 SPEC 
寸法:全長8100×全幅3450×全高2050mm、ホイールベース:3318mm、乾燥重量:15150㎏、エンジン:水冷6気筒ディーゼル(CUMMINS)、総排気量:6700㏄、最高出力:175kW、トランスミッション:前進4速・後退3速AT、最大牽引力:35000kg、最高速度:30㎞/h
※数値はKALMAR社の標準モデルのもの

移動用のエンジンは、アメリカの産業用・商用車用エンジンなどを提供するCUMMINS社のディーゼル・エンジンを搭載。

車体の側部に旅客機に電気を供給する発電用装置(GPU:グランド・パワー・ユニット)を備えている。写真はGPUのマフラーだ。

旅客機の前輪とドッキングするための車体後部の装置。黄色い部分で旅客機の前輪を固定するのだ。

旅客機の移動を補助する力持ち2。 ”トーバー”を使用する「トーイング・トラクター」の運転は練度が必要!

旅客機を移動するのに“トーバー”を使うのが、トーイング・トラクターだ。JGSでは羽田空港に小松製作所製の車種を中心に約20台を運用している。トーイング・トラクターが旅客機を移動させる仕組みはシンプルだ。トーイング・トラクターの後ろにトーバーを6~7㎝のピンで接続。トーバーのもう一方を旅客機の前輪に接続する。1本の棒で固定して旅客機を押し引きする。運転操作は、ハンドル&2ペダルであって、普通のクルマの運転とほぼ同じとなる。

ただ、問題になるのがトーバーの両側はピンでしか固定されていないということ。旅客機の前輪は左右に自在に動くし、トーバーの車両側もブラブラと自在に動く。つまり、旅客機を移動させたい方向に単純に押せばいいわけではない。トーバー前後の支点と旅客機の前輪のタイヤの向きを考慮しながら、微妙な操作が必要となる。これが難しい。

さらにトーバーと旅客機前輪との接続部に隙間があるのも厄介な問題だ。そのためじんわり上手に押さないと、旅客機に振動が伝わる。上手な人は、動き出す瞬間が乗客に分からないように、スムーズに押すことができるそうだ。

旅客機がPBBから離れる時は、必ずトーイング・トラクターが押している。今度、飛行機を利用して移動する際は、その動き出しの瞬間に注意してみると面白い。ガツンと衝撃がくるのか? それとも、スーッと静かに動き出すのか? ここにトーイング・トラクターの運転手の腕前が表れるのだ。

トーイング・トラクターがトーバーを用いて旅客機を押して、駐機場から離れているところ。(画像のトラクターは別車種)

トーイング・トラクター(KOMATSU WT-250E )

KOMATSU WT-250E SPEC 
寸法:全長7670(GPU含む)×全幅2900×全高2800㎜、ホイールベース:3300㎜、エンジン:水冷ディーゼル(コマツSA6D108)、総排気量:7150㏄、最高出力:220PS/2400rpm、トランスミッション:4速AT、最大牽引力:20000kg、最高速度:33㎞/h
※諸元値はKOMATSU社の標準モデルのもの

後退時の視界確保のため後ろの窓が大きい。車体後端にあるのが電気供給用エンジンのGPUだ。

運転席は、前進用と後退用の2種が用意されている。後退用の運転席が存在しない車種もある。

白い2本のトーバーと左奥にトーバーが3本。接続時はタイヤを上にあげる。旅客機ごとに専用のトーバーを使う。

乗客の荷物を大量にかつスムーズに運ぶ運搬トラクター

旅客機に積み込まれる手荷物の入ったコンテナを運ぶ。これも空港での重要な仕事のひとつ。それを担うのが2人乗りの小さなトーイング・トラクターだ。

JGSの羽田空港で運用されている車両はトヨタL&F(旧・豊田自動織機)製だ。旧・豊田自動織機は、豊田佐吉発明の「自動織機」を製造・販売するため大正時代に生まれた会社で、現在のトヨタ自動車の母体といえる存在。しかし、現在の主力商品はフォークリフトなどの産業車両で、そのひとつが、このトーイング・トラクターである。

操作はハンドルと2ペダル、3速ATのシフトで、普通のクルマと大差ない。移動だけなら難しくはないのだ。しかし、牽引するとなると別。ブレーキング時にはコンテナに後ろから押されることもあり、また、曲がる時は後ろのコンテナの動きに注意し、内輪差外輪差を考慮する必要がある。実は運転が難しい。

車両的な特徴は重いこと。軽自動車よりも短い、全長3mほどの車体でありながらも、車両重量が3900㎏もある。2人乗員であれば、総重量は4トンを超えることもある。

なぜ、これほど重いのかといえば、一言でいえば、それは牽引能力を高めるためだ。つまり、荷物を満載して移動するため、高いボディ剛性が必要となる。そのため、ボディ鉄板は、普通乗用車が使用している1㎜以下の鉄板に対して、こちらは厚みが1㎝近くもある。そのため、規格外なまでに車両重量が重くなるのも道理というわけだ。

国内線用のコンテナは1つで1トンほどの重量にもなる。そんなコンテナを6個も軽々と牽引する能力があるのだ。

貨物運搬用トーイング・トラクター(TOYOTA L&F  2TD-25 

TOYOTA L&F  2TD-25  SPEC
寸法:全長3020×全幅1445×全高1390㎜、ホイールベース:1600㎜、車両重量:3900㎏、エンジン:水冷直列4気筒ディーゼル(トヨタ1DZ-Ⅱ)、総排気量:2486㏄、定格出力:40.5kW(55PS)/2400rpm、最大トルク:167Nm/1600rpm、トランスミッション:3速AT、牽引重量:コンクリート舗装路(平坦路)・単体牽引33000kg/列車牽引49000kg
※諸元値はTOYOTA L&F社の現在の標準モデルのもの

2.5リッターのディーゼル・エンジンを搭載。フェンダーやボンネットなどの鉄板は、すべて1㎝近い分厚いものとなっている。

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