
労働着からファッションへと進化したジーンズのように、自動車界で商用トラックから今日の人気カテゴリーへと発展を遂げたのがSUVだ。そのトレンドの先駆者となったのが、1984年に誕生したトヨタ「ハイラックスサーフ」。アメリカ西海岸の自由なライフスタイルを体現するアクティブな車として、日本の若者に熱狂的なRVブームを巻き起こした。やがて時代は移り、乗用車ベースでより日常使いに適した「RAV4」が登場すると、世界のSUV市場は都市型へと新たなフェーズに突入する。サーフは日本市場から姿を消したが、実用性と快適性を追求する日本らしいモノづくりの系譜は、現在のSUVの隆盛へと確かに受け継がれている。
●文:横田晃(月刊自家用車編集部)
リヤシートは50:50分割でダブルフォールディング。リヤパワーウインドウをおろし、下ヒンジ式のゲートを開ければ、大きな間口となる。4ナンバーのバン登録(後にワゴンも追加)だが、内張りなど質感は高い。
- 1 今も北米市場で最も売れているクルマは、フォードのFシリーズと呼ばれる小型ピックアップトラックなのだ
- 2 日本メーカーの北米市場進出の先鋒となったダットサントラック
- 3 トヨタの企画の元で日野の技術陣が開発生産する初代ハイラックスが、北米市場で初めてダットサントラックの牙城を崩すことに成功する
- 4 4代目ハイラックスにベッド部分を運転席とつながった快適なキャビンとした初代ハイラックスサーフを発売
- 5 RV=レクリエーショナルヴィークルという新しいカテゴリーの乗り物として、流行の最先端に躍り出た2代目ハイラックスサーフ
- 6 軽いモノコックボディでオンロードでも快適に走れるRAV4により世界のSUV市場の在り方が一変する
今も北米市場で最も売れているクルマは、フォードのFシリーズと呼ばれる小型ピックアップトラックなのだ
もともと労働着だったジーンズは、やがてその機能性だけでなく、ファッション性も認められて、今では高級ブランドにも当たり前にラインアップされるまでになった。自動車の世界で同様の経緯を辿ったのがSUV。そのトレンドをリードした一台が、トヨタのハイラックスサーフだ。
自動車メーカーの製品というと、一般にはスポーツカーやセダンを始めとする乗用車が連想されるが、今も昔も、バンやトラックなどの商用車は売り上げの大きな割合を占めている。とくにアメリカではボンネット付きの、いわゆるピックアップトラックの市場が大きい。現在でも北米市場で最も売れているクルマは、フォードのFシリーズと呼ばれる小型(とはいえ全長5m級!)ピックアップトラック。全自動車部門のトータルで、じつに40年以上もベストセラーであり続けている。
戦後日本が高度経済成長期に向かう少し前、小口流通で大活躍したダットサントラック。
日本メーカーの北米市場進出の先鋒となったダットサントラック
日本でも、マイカー時代到来以前に自動車メーカーの経営を支えたのは、大中小のトラックだった。中でもピックアップトラックは、1950年代に日本メーカーの北米市場進出の先鋒となった。主役となったのはフォードFシリーズなどのアメリカ車より小さい、日本国内では4ナンバーとなる小型車だ。
その中で北米市場で最初に成功したのは、日産のダットサントラックだった。頑丈で経済的なそれは、ダットサンの名を全米に広める役割を立派に果たした。
対するトヨタは苦戦していた。1957年に日本製の乗用車としては初めて太平洋を渡った初代クラウンは、フリーウェイの流れに乗れないと酷評されて撤退。
代わりにクラウン誕生と同じ1955年に2代目となったランドクルーザー(ランドクルーザーを名乗ったのはこのモデルから)がトヨタの北米市場における主力商品となったが、単価の高いランドクルーザーは数で勝負できない。そこで小型車クラスのトヨペットトラックや、より北米市場を意識したスタウトなどのピックアップトラックを送り込むが、ダットサンにはなかなか勝てなかった。
当時からトヨタは、トラックにも乗用車的な快適さや乗り心地を盛り込んでいたが、それとトラックとしての堅牢さや使い勝手とのさじ加減に苦慮していたのだ。
トヨタの企画の元で日野の技術陣が開発生産する初代ハイラックスが、北米市場で初めてダットサントラックの牙城を崩すことに成功する
そうした中でトヨタは、1966年当時はまだ乗用車のコンテッサを生産していた日野自動車と業務提携契約を結ぶ。戦前からトラックを手がけ、戦中には戦車などの特殊車両を開発製造していた日野は、戦後ルノー車のノックダウン生産を経て、オリジナル乗用車のコンテッサを生んだものの、気まぐれな大衆相手の乗用車ビジネスは行き詰まろうとしていた。
そこでコンテッサを生産していた東京・羽村市の工場でトヨタのパブリカなどの生産を受託する一方、トヨタのトラックの開発生産も受け持つことで、生き残りを図ったのだ。
そうしてトヨタの企画の元で日野の技術陣が開発生産する体制で1968年に生まれたのが、小型ピックアップトラックの初代ハイラックスだった。このタッグは見事に機能して、ハイラックスは北米市場で初めてダットサントラックの牙城を崩すことに成功したのだった。
トヨタの企画の元で日野の技術陣が開発生産した初代ハイラックス。
4代目ハイラックスにベッド部分を運転席とつながった快適なキャビンとした初代ハイラックスサーフを発売
それから約20年後、日米の市場で確固たる地歩を固めていたハイラックスは、新しい商品企画を手に入れる。北米で3代目ハイラックスをベースに、現地の架装メーカーがベッド(荷台)にFRP製キャビンを載せたキャンピングモデルがヒット。それを受けて、トヨタ自身が4代目ハイラックスにベッド部分を運転席とつながった快適なキャビンとしたモデルを設定し、日本市場にも投入した。1984年に発売されたそれが、初代ハイラックスサーフだ。
1980年代の日本のイケてる若者のお手本は、アメリカ西海岸。サーフボードをベッドに放り込んで波打ち際に乗りつけるカリフォルニアの若者たちを彷彿させるハイラックスサーフは、1970年代までの人気者だったスポーツカーや上級セダンとはまったく異なる、アクティブな価値観の乗り物として認知された。
初代ハイラックスサーフ
1984年に発売された初代ハイラックスサーフ。当時の若者からは、サーフボードをベッドに放り込んで波打ち際に乗りつけるカリフォルニアの若者たちを彷彿させる、アクティブな価値観の乗り物として認知された。
トラックの荷台に屋根を付けた構造のため、ボディとリアのFRPシェルで素材が分かれている。
運転席回りは、水平基調で、操作性を重視したシンプルで機能的なレイアウト。センタークラスター上部に配置された3連メーターは、左から高度計 & 気圧計、傾斜計(ロール)、傾斜計(ピッチ)となる。
RV=レクリエーショナルヴィークルという新しいカテゴリーの乗り物として、流行の最先端に躍り出た2代目ハイラックスサーフ
時はバブル景気に向かうイケイケ時代だ。当初は4ナンバーの商用車規格で2ドアしかなかったハイラックスサーフに、1986年に5ナンバーの乗用車登録車が加わると人気は加速。アメリカ政府の関税見直しで、トラックでも4ドア車が設定できるようになった1989年に登場した2代目ハイラックスサーフは、まだSUVという言葉は知られていなかった日本では、RV、すなわちレクリエーショナルヴィークルという新しいカテゴリーの乗り物として、流行の最先端に躍り出たのである。
そうして日本にSUVを普及させたトヨタは、自らの手でそれを次のフェイズへと進めた。1994年に、セリカのプラットフォームにSUVテイストのボディを載せた、オンロードも快適に走れる新しいタイプの乗り物、RAV4を投入したのだ。
2代目ハイラックスサーフ
1989年に登場した2代目ハイラックスサーフは、RV(レクレーションビークル)という新しいカテゴリーの最先端となった。
3代目ハイラックスサーフ
これまでハイラックス(トラック)シャシーを採用してきたが、このモデルからランドクルーザープラド(90系)とプラットフォームを共有。トラックの派生車から「本格的な乗用SUV」へと劇的な進化を遂げることとなる。
軽いモノコックボディでオンロードでも快適に走れるRAV4により世界のSUV市場の在り方が一変する
トラックベースの頑丈なフレームと4WDシステムを持つハイラックスサーフは本格的なオフロード走行の実力も高かったが、多くの一般ユーザーにとってはその性能は過剰で、乗り心地も乗用車並みとはいかなかった。
対して軽いモノコックボディと、経済的なエンジン横置きFFベースのフルタイム4WDを採用したRAV4は、普段使いにはハイラックスサーフよりずっと適していた。それに気づいた世界の市場でRAV4は支持され、翌年誕生した同様の成り立ちを持つホンダCR-Vとともに、世界のSUV市場の在り方を変えていくことになる。
ハイラックスサーフは、ランドクルーザープラドとプラットフォームを共用した2002年の4代目を最後に、日本市場向けは姿を消した。2015年に登場した8代目ハイラックスはタイでの生産となり、日本向けの販売も2017年に復活したが、サーフは設定されていない。
ジーンズでは高級ブランドから作業着ブランドまで幅広いモデルが健在だが、SUVは高級ブランドやオンロードタイプが隆盛を誇る一方で、リーバイス501のような泥臭いビンテージモデルとなったハイラックスサーフは都市では生き残ることができなかった。代わりに、新素材で履き心地や快適性を高めたユニクロのジーンズのようなRAV4やCR-Vが、世界の市場で暮らしにちょうどいい実用SUVとして愛されている。それは、とても日本らしい闘い方の勝利なのだと思う。
4代目ハイラックスサーフ
前モデルと同様、大型化したランンドクルーザープラド(120系)とプラットフォームを共用したため、ボディサイズが拡大された。2009年に国内販売が中止となり、これ以降、国内市場に導入されていない。
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