
先日、福島県にて水素大動脈構想における地域準備会が開催された。その場で披露された水素大動脈構想とは何か? 近未来に訪れる水素エネルギー社会において、その実装に向けた取り組みの現状をお伝えしよう。
●文/写真:鈴木ケンイチ
「水素大動脈構想」実現への第一歩、福島から
8月28日、福島県にて「水素大動脈構想実現に向けた地域準備会」が開催された。役割としては、経済産業省が主導する「水素大動脈構想」の加速を狙う会議であり、ここ福島が記念すべき初の開催地となるとのこと。
会場には経産省をはじめ、水素バリューチェーン推進協議会、自工会、福島県、自動車メーカー、物流・ステーション事業者など、プロジェクトのキーマンが一堂に会した。現場では、実装に向けた課題や現場からの要望、将来的な提言をめぐり熱のこもった議論が交わされていたのが印象的だ。
左から水素バリューチェーン推進協議会会長・トヨタ副会長の佐藤恒治氏、福島県知事の内堀雅雄氏、資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部水素・アンモニア課課長の笠井康広氏。
福島県郡山市の市内にあるホテルで実施された「水素大動脈構想実現に向けた地域準備会」。
物流の未来を変える「水素大動脈構想」の規模感
今年スタートした「水素大動脈構想」は、水素エネルギー社会の実現を目指す大型プロジェクトだ。
具体的には、福島から東京・神奈川、愛知、兵庫、福岡までを結ぶ日本の物流大動脈に、燃料電池トラック(以下、水素トラック)と水素ステーションを集中導入するものだ。需要を集中させることでコストを下げ、他産業へも水素利用を波及させる狙いが見て取れる。
示されたロードマップによれば、2030年までのフェーズ1でトラック500台とステーション10基、2035年までのフェーズ2ではトラック1500台とステーション30基の稼働を目指すという。ターゲットとする水素価格は1kgあたり1000円だ。
長距離輸送の主役として期待がかかるのが、昨年秋に発売された日本初の大型燃料電池トラック「日野プロフィアZ FCV」である。
取材時の日野自動車の説明によれば、今年秋に納入した50台はすでに完売しており、そのうち13台が福島ルートへ投入される予定だという。この動きを見るだけでも、現場の関心の高さが伺える。
ステーション見学でわかった、インフラの現実とコストの壁
準備会に先立ち、福島の「本宮インターチェンジ水素ステーション」のメディア向け見学会も行われた。
ここは東北道と東北横断道が交わる郡山JCTのすぐ北に位置し、まさに物流の要衝といえる絶好のロケーションだ。ガソリンスタンドに隣接し、2系統のシステムで24時間365日の連続営業を実現している点も心強い。実際に2024年10月から836日を超える無休営業を達成していると聞き、インフラとしての信頼性の高さが実感できた。
同ステーションでは今後、供給能力のさらなる強化に挑むという。
現在はトレーラーで210kg(19.6MPa)の水素を運んでいるが、今後は30MPaで850kg以上を積載できる一体式コンテナ「MEGC」の導入を予定している。2027年度の実証を経て、大量かつ低コストな供給体制が整うかどうかが今後の焦点となりそうだ。
一方で、やはり課題として重くのしかかるのが「走行コスト」だ。
取材時の水素価格は1kgあたり1705円。「日野プロフィアZ FCV」の燃費(13km/kg)で換算すると、1km走るのに約131.2円かかる計算になる。一般的なディーゼル車(燃費4.2km/L、軽油160円/L)が1kmあたり約38円であることを考えると、実に3倍以上のコスト差が存在するわけだ。
自工会が掲げる「1kgあたり1000円」を達成したとしてもディーゼル車の約2倍のコストが残る計算になり、経済性の確保に向けたハードルは依然として高いと感じざるを得ない。
6600平米もあり、大型トラックが悠々と運用できる広々とした本宮インターチェンジ水素ステーション。
本宮インターチェンジ水素ステーションで、現在、水素の運搬・供給に使用されている圧縮水素トレーラー。運搬されたトレーラーをタンク代わりに置いて運用する。
昨年9月に発売になり、今年秋の納車を予定する日本初の燃料電池大型トラック「日野プロフィアZ FCV」。
イベントの電源車として用意された燃料電池バス「SORA」。電源供給量を増やすため、水素タンクを通常の2倍搭載している特別車であった。
オーストラリア向けの「ハイエース」を燃料電池車に改良したもの。ほぼ手作り数台製作された車両も電源供給車として活用されていた。
現場主義で積み重ねる「スモールサクセス」
会議を終え、水素バリューチェーン推進協議会会長を務める佐藤恒治氏(トヨタ自動車)は、「社会実装に向けた具体的な一歩を踏み出せたことを誇りに思う。皆さんの熱心な議論を拝聴し、必ずや状況が動き出すという確かな手応えを得た」と手応えを口にした。
同時に佐藤会長は、「一度に大きな需要を狙うのではなく、経済合理性のあるスモールスタートをしっかりと切り、地域に合わせたモデルを繋ぎ合わせていくことが重要だと感じている。今日がまさにその始まり。現場主義で課題に向き合い、改善を積み重ねていきたい」と力強く語った。
遠大な構想だからこそ、地道な「スモールサクセス」の積み重ねこそが、水素社会という未来を引き寄せる鍵になる。現場取材を通じて、そんな確信めいたものを感じさせる1日となった。
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