「うわっ、小さすぎ…」と侮るなかれ。アストンマーチンも惚れ込んだ傑作マイクロカー「iQ」の正体│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

「うわっ、小さすぎ…」と侮るなかれ。アストンマーチンも惚れ込んだ傑作マイクロカー「iQ」の正体

「うわっ、小さすぎ…」と侮るなかれ。アストンマーチンも惚れ込んだ傑作マイクロカー「iQ」の正体

「トヨタのクルマ」と聞いて、多くの人は堅実で保守的なイメージを抱くかもしれない。しかし、トヨタは時折、世間を「うわっ」と驚かせる大胆なモデルを投入してきた。その代表格が、2008年に登場した全長わずか3m足らずのマイクロカー「iQ」だ。一見すると珍車やイロモノに思われがちだが、実は高級車アストンマーチンが自社ブランドとして販売したほど、トヨタの次世代技術と意地が詰まった本格派だった。一代限りで姿を消したこの異端児は、現在のクラウンの劇的な進化にも通じる貴重なデータを残している。トヨタにしか作れない「大真面目な実験作」の真髄とは。

●文:横田晃(月刊自家用車編集部)

全長2,985mm、ホイールベース2000㎜という超コンパクトなボディゆえに、最小回転半径3.9mという驚異的な回頭性を実現した。

保守的なクルマ造りのイメージが強いトヨタだが、ときどき大胆な商品企画を世に送り出してきた

トヨタ車にぶっ飛んだイメージを持つ人は、さほど多くはないだろう。最近では大変身を遂げたクラウンのようなモデルも出てきたが、多くの人がイメージするトヨタ車は、カローラに代表される堅実で上質だが、どちらかと言えば保守的なクルマだろう。

ところが、じつはトヨタは昔から、ときどき「うわっ」と思わせる大胆な商品企画を世に出してきた。世界レベルのスポーツカーを目指したトヨタ2000GTも、当時としては「うわっ」だったし、日本初のミッドシップスポーツカーのMR2も、小型車に派手なガルウイングドアをつけちゃったセラも、かなり「うわっ」なクルマだった。

じつはそれらはどれも、ただのイロモノではなく、次の時代を見据えてトヨタにしかできない技術や企画を世に問う、ちゃんとした“自動車”に仕上げられていたのがポイントだ。2008年に登場した全長3m足らずのマイクロカーのiQも、「うわっ」と思わせながらも触れてみるときちんと作りこまれた、じつにトヨタらしい次世代型実用車の提案だった。

タイヤを四隅ギリギリに配置しているため、フロントオーバーハングが極端に短くなっている。

リアオーバーハングもほぼなく、リアガラスが切り立っている。テールランプは縦型に配置され、リアバンパーはボリューム感を持たせることで、安定感のあるデザインになっている。

ヘッドライトは切れ長で、小さなボディながらも存在感のある顔つきだ。

オモチャのようなスタイルだが、中身はきっちり快適性を追求したトヨタ車だった「iQ」

商品企画的には、1998年に登場し、2000年には日本にも上陸したスマートクーペ、のちのスマートフォーツーのトヨタ版だが、内容的には全然違うクルマだった。スマートはもともと時計メーカーのスウォッチと当時のダイムラー・ベンツのコラボという、自動車とは異なる発想から生まれたクルマ。2人乗りの街中専用車と割り切った作りや走りは、よく言えば屋根のついたバイク、悪く言えば使えるオモチャのような乗り物だった。

しかし、iQはちゃんとしたトヨタ車。全長3mを切るプロポーションこそチョロQを思わせたが、前を向いて乗っている限り、その快適性や乗り味は、まぎれもなく誰もが知る安心快適なトヨタ車そのものだった。

スマートはリヤにエンジンを積んで後輪を駆動するRR方式だったが、iQはオーソドックスなFF車。しかし短い全長による操縦安定性のネガを払拭し、最大限の室内空間を確保するために前後のタイヤを目いっぱい車両の隅っこに押しやり、そのためにトランスミッションやステアリングシステムを専用開発する本気ぶりが、トヨタならでは。おかげでこんなプロポーションでもビシッと安定した高速走行ができたし、大人2人ならロングドライブだって快適にこなせた。ちなみに、助手席後部のシートのみ大人用で、運転席後部は子供専用席。乗車定員も大人3名+子供1名となる。

助手席側のダッシュボードを先方に押しやることで左右非対称の形状となっている。これにより、助手席を運転席よりも大幅に前へスライドさせることが可能になり、後席の居住性を確保した。

助手席を前に出すことで、助手席側の後席に大人が座れる足元スペースを確保。一方、運転席の後ろはヘッドレストを設定しているもののスペースが狭く、子供用、あるいは手荷物置き場として想定されていた。

メーター自体の形状も左右非対称となる。右側に大きく見やすいアナログスピードメーターを配置し、左側には長方形のマルチインフォメーションディスプレイ(燃料計、オドメーター、時計などをデジタル表示)を配置。

日本仕様は主にCVT(無段変速機)が採用されている。、シフトレバーは「ゲート式」となり、目視しなくても感覚的にシフトチェンジができ、操作ミスを防ぐ工夫がなされていた。

未来に向けたさまざまな実験的な要素を取り入れた、挑戦的な企画車だった

トヨタの欧州スタジオ、ED2によるデザインも、リヤクオーター周りに巻貝の形状をコンピュータで分解した造形を取り入れるなど、自然界のゆらぎを用いていると発表当時説明を受けた覚えがある。正直「なんのこっちゃ」と思ったが、要はいろんな実験的な要素を取り入れた、挑戦的な企画だったということ。

その心意気は海外にも通じ、かの高級ブランド、アストンマーチンが、本革シートなどの豪華装備を施したiQのOEM(相手先ブランド)供給を受け、シグネットの名で売り出したりもした。

トヨタ自身も当時のGAZOO RacingがチューニングしたGRMNを名乗るスポーツ仕様や、スーパーチャージャー付きモデルまで投入。ただのチビっこじゃないぞという主張をしている。

しかし、一番このクルマらしかったのは、世界100台の限定販売で終わった電気自動車のeQだろう。登場した2012年当時はバッテリーの性能もまだ低く、航続距離も100kmでは一般向けにはならなかったが、こうしたマイクロカーのEVは、2020年代の今こそ世界でニーズが盛り上がる可能性を秘めている。

一代で終わってしまったiQは、珍車やイロモノよばわりされることもあるが、未来に向けたさまざまな実験的要素を詰め込んだ、トヨタにしかできない市販モデルだったということができるだろう。こうしたクルマで得た成功や失敗のデータを、のちのクルマの開発に活かすことで、トヨタは世界一の自動車メーカーになった。トヨタが発信する「うわっ」は、ただの思い付きや蛮勇ではなく、いつだって大真面目。だからクラウンのような思い切った変身もできる。それが彼らの凄みなのだ。

ヴィッツなどに搭載されていた可変バルブタイミング機構採用の1.0L 直列3気筒エンジン(1KR-FE)を搭載。デビュー翌年には、1.3L 直列4気筒エンジン(1NR-FE)が追加設定されている。1.3Lエンジンには、吸気・排気の両方に可変バルブタイミング機構(Dual VVT-i)を採用。

主要諸元

諸元130G100G
全長(㎜)3,0002,985
全幅(㎜)1,6801,680
全高(㎜)1,5001,500
ホイールベース(㎜)2,0002,000
乗車定員(名)44
最小回転半径(m)3.93.9
車両重量 (kg)950890
エンジン型式1NR-FE1KR-FE
エンジン種類直列4気筒DOHC直列3気筒DOHC
総排気量 (cc)1,329996
最高出力〈ネット〉 kW(PS)/r.p.m.69(94)/6,00050(68)/6,000
最大トルク〈ネット〉 N・m(kgf・m)/r.p.m.118(12.0)/4,40090(9.2)/4,800
燃料タンク容量 (L)3232
使用燃料無鉛レギュラーガソリン無鉛レギュラーガソリン
サスペンション (フロント)マクファーソンストラットマクファーソンストラット
サスペンション (リア)トーションビームトーションビーム
ブレーキ(フロント)ベンチレーテッドディスクベンチレーテッドディスク
ブレーキ(リア)ディスクドラム

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