●文:月刊自家用車編集部 ●写真:スズキ株式会社
雪国の警察や郵便局などの切実なニーズを取り込みヒット車となったジムニー
’60年代後半から’70年代にかけての日本は、高度経済成長のピークにあった。懸命に働いて戦後の窮乏時代を脱し、豊かさを手に入れた日本人は、マイカーを現実のものとし、休日のドライブが幸せなライフスタイルのシンボルになる。そうして到来したのが、空前のレジャーブームだった。
SJ10型(ジムニー55)のインパネ。LJ10型と違い、速度計の右には燃料計に加え水温計も備わった。またオプションのラジオの取り付け位置はメーター類と同じ高さとなる。メーターまわりやグローブボックスのリッド部は、太陽光の反射を考えて黒のつや消し素材(プラスチック)で覆われた。
自動車メーカーもそのトレンドを逃さず、遊び心のあるクルマを企画した。ただし、フェローバギィやバモスホンダなどは、既存の軽トラックなどのフレームに、簡単なボディをかぶせたもので、企画としては面白かったものの、ヒットに至ることはなかった。
フロンテなどの成功で、軽自動車メーカーとしての地位をすでに確立していた鈴木自動車工業(現スズキ)でも、ジープタイプをふくめたレジャーカーの企画が研究されてはいたが、その可能性は未知数。鈴木修常務(現相談役)がほとんど独断で開発販売を決めたON360がベースの4WD車にも、「こんなモノが売れたら、社内を逆立ちして歩いてやる」と息巻く重役さえいたという。
ところが、キャリイ用の空冷2気筒2サイクルエンジンを積み、ウインチなども使えるPTO(外部出力軸)も設定された本物のオフローダーに仕立てられたジムニーは、見事に売れたのだ。発売初年だけで、当時の〝本家〟である三菱ジープをしのぐ、5000台近くを販売。翌年には6000台以上を売る。当初は外注工場でのハンドメイドで、月産200台程度を見込んでいたが、たちまち自社工場のラインで量産されるまでになった。
その実力を評価したのは、まず警察や営林署、郵便局などだった。国土の過半を占める積雪山林地帯を、縫うように走る狭い道路で業務を遂行するには、ジープやランドクルーザーなどの本格オフロードカーは持て余す。小さくても高い走破性を備え、48.2万円という販売価格も含めた運用コストも安いジムニーは、レジャーカーには満たせない、切実なニーズを掘り起こしたのである。
その実力は海外でも高く評価された。ブルートの名で輸出された北米を始めとする世界の市場で、ジムニーはスズキの名を広めたのだ。軽自動車規格のない海外市場向けに開発した800ccや1L、1.3Lなどのエンジンは、スズキのその後の海外戦略にとっても重要な武器となり、国内でも小型車市場進出の足がかりとなった。
綿密な市場調査も行われなかったジムニーは、浮かれたレジャーブームとは無縁の、本物の実用車として世界中で愛されていった。
■主要諸元
SJ20型幌タイプ4人乗り(’78年式)
●全長×全幅×全高:3170mm×1395mm×1845mm ●ホイールベース:1930mm ●トレッド(前/後):1190mm/1200mm ●車両重量:715kg ●乗車定員:2(4)名 ●最大積載量:250kg ●エンジン(F8A型):水冷直列4気筒4サイクルOHC797cc ●最高出力:41PS/5500rpm ●最大トルク:6.1kg・m/3500rpm ●最小回転半径:4.9m ●トランスミッション:前進4段、後進1段 2段副変速機 ●タイヤ:6.00-16 4P ●価格(東京地区):85万9000円(1978年当時)
※本記事は月刊自家用車2018年9月臨時増刊号ザ・ジムニー・プロジェクトに掲載した記事を再構成したものです。
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