
●文:月刊自家用車編集部
3列シートのコンパクトミニバンでも、ターゲットとしているユーザー層は異なっている
全長4.3m前後のコンパクトサイズに3列シート&リヤスライドドアを持つミニバンは、新型フリードとトヨタ・シエンタの2台しかない。ともに純内燃機(ICE)車と駆動モーターを組み合わせるハイブリッド車をラインナップするが、基準となるエンジン排気量も1.5Lクラスと同じだ。
コンパクトボディにユーティリティ機能を効率的に詰め込んでいることは共通しているが、大きな違いといえるのがボディ形状。シエンタのスタイリングは横長感を意識したワゴンに近いタイプになるが、フリードは少しつまった印象が強めな1BOXタイプ。
車体設計やプロポーションからしても、シエンタはステーションワゴンから発展したことが明らか。スライドドアやサードシートを効率的に配置することで実用性を高めているが、サードシートの居心地や格納作業の手間、積載性はフリードには少し及ばない。メインターゲットは、ドライブの大半はサードシートを格納した状態でワゴン的に使いたいと願うユーザーに最適なミニバンに仕上がっている。
一方のフリードは、上のミドルクラスミニバンには及ばないもののサードシートの座面を厚めにするなど居住性も重視したパッケージを採用。新型は後席頭上にもリヤクーラーを配置するなど、快適性向上の工夫も加えられており、先代以上に多人数乗車時の使い勝手の良さを売りとしている。2列シート車は、低床構造を最大限に活かしたラゲッジとすることで、高さのある荷物の積載も得意だ。
このようにライバル関係にありながらもじっくり見比べていくと、キャラクターや想定しているユーザー層が違っていることは明白だ。
フリード e:HEV エアーEX
e:HEVのエアーEXは、発売1か月の受注集計において、販売台数全体の55%を占める主力グレード。メインターゲットはファミリー層ということもあって、前後パンパーやサイドパネルは馴染みやすさを優先したプレーンなデザインを採用している。
フリード e:HEV クロスター AWD
クロスターは先代のマイナーチェンジ時(2019年)にラインナップに追加されたグレード。現行型はルーフレールやプロテクター風の加飾でSUVライクなイメージを強めたことで、先代よりも標準車との違いが明確になっている。
フリード e:HEV クロスター AWD(5人乗り)
フリード e:HEV クロスター AWD(5人乗り)
シエンタ ハイブリッドZ
ステーションワゴンと1BOXミニバンの良いとこ取りを狙ったパッケージングが印象的。全高は1695mmと2L級1BOXのノアよりも200mmも低く、低車高がもたらすスタイリングも魅力のひとつになっている。また最小回転半径は5.0mと狭い路地で扱いやすい運転感覚も人気を集めている理由だ。
シエンタ ハイブリッドZ
フリードは高速長距離もこなす万能タイプ。シエンタは穏やかな乗り味を武器にするファミリーカーらしい味付け
ハイブリッド車同士で走行性能を比べても、キャラクターは異なっている。最新ハイブリッドのe:HEVを採用したことで、力強さやコントロール性が高まったフリードに対して、シエンタはタウンユースでの扱いやすさを重視したファミリーカーらしい味付けになっている。
トヨタ最新世代のダイナミックフォースエンジンがもたらす基本性能の高さや優れた燃費性能は、現行シエンタの大きな武器になっているが、高速域ではエンジンの回転域が高くなる傾向が強く、速度が出ている中高速域での余力感はそれほど高くない。高速道路などの高速域において、モーター→エンジン直動を柔軟に使い分けてくれるフリードの方が、明らかに速度コントロールが容易で扱いやすい。
フットワークもシエンタは街なか重視のセッテイング。低中速域での柔らかな乗り心地の良さが際立っているが、速度が高まると挙動やラインコントロールの収束性はフリードの方が安定している。フリードは新型になって高速長距離適性が大きく高まっていることもあって、ロングドライブを重視するならば、フリードが一歩リードしている。
フリードのハイブリッド車は2モーター式のe:HEVを搭載したことで動力性能が大きく向上。低中速域での力強さや扱いやすさも洗練されるなど、先代以上にハイブリッド車を選ぶ意味が大きくなっている。
操る手応え感やアクセル入力に対するコントロール性はほどほどだが、走行時の静粛性や安心感は最新トヨタ車らしく高いレベルに仕上げている。ダイレクトシフトCVTを採用するガソリン車は街なか中心ならば動力性能に不満を覚えることもない。価格優先というユーザーならば、性能と価格のバランスに優れるシエンタのガソリン車はかなり魅力的だ。
●フリード グレードバリエーション&価格 | ||
パワートレーン | グレード【トランスミッション】 | 価格【2WD/4WD】 |
1496cc直4DOHC 118PS/14.5kg・m | エアー(6人乗り) | 250万8000円/273万9000円 |
エアーEX(6人乗り) | 269万7200円/292万8200円 | |
エアーEX(7人乗り) | 274万1200円/- | |
クロスター(5人乗り) | 281万2700円/304万3700円 | |
クロスター(6人乗り) | 285万6700円/308万7700円 | |
1496cc直4DOHC 116PS/13.0kg・m + モーター 90kW/253Nm | e:HEV エアー(6人乗り) | 285万7800円/308万8800円 |
e:HEV エアーEX(6人乗り) | 304万7000円/327万8000円 | |
e:HEV エアーEX(7人乗り) | 309万1000円/- | |
e:HEV クロスター(5人乗り) | 316万2500円/339万3500円 | |
e:HEV クロスター(6人乗り) | 320万6500円/343万7500円 |
●シエンタ グレードバリエーション&価格 | ||
パワートレーン | グレード【トランスミッション】 | 価格【FF/4WD】 |
1490cc直3DOHC 120PS/14.8kg・m | X(5人乗り)【ダイレクトシフトCVT】 | 199万5200円/− |
X(7人乗り)【ダイレクトシフトCVT】 | 203万5200円/− | |
G(5人乗り)【ダイレクトシフトCVT】 | 233万7500円/− | |
G(7人乗り)【ダイレクトシフトCVT】 | 237万7500円/− | |
Z(5人乗り)【ダイレクトシフトCVT】 | 264万6600円/− | |
Z(7人乗り)【ダイレクトシフトCVT】 | 268万6600円/− | |
1490cc直3DOHC 91PS/12.2kg・m + モーター 59kW/141Nm | X(5人乗り)【電気式CVT】 | 239万円/− |
X(7人乗り)【電気式CVT】 | 243万円/− | |
G(5人乗り)【電気式CVT】 | 268万7500円/− | |
G(7人乗り)【電気式CVT】 | 272万7500円/− | |
Z(5人乗り)【電気式CVT】 | 299万6600円/− | |
Z(7人乗り)【電気式CVT】 | 303万6600円/− | |
1490cc直3DOHC 91PS/12.2kg・m + フロントモーター 59kW/141Nm リヤモーター 2.2kW/44Nm | X(5人乗り)【電気式CVT】 | −/258万8000円 |
X(7人乗り)【電気式CVT】 | −/262万8000円 | |
G(5人乗り)【電気式CVT】 | −/288万5500円 | |
G(7人乗り)【電気式CVT】 | −/292万5500円 | |
Z(5人乗り)【電気式CVT】 | −/319万4600円 | |
Z(7人乗り)【電気式CVT】 | −/323万4600円 |
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ホンダ)
先進安全装備に加えエクステリア/インテリアにも専用装備を設定 新搭載される「Honda SENSING 360+」と名付けられた運転支援システムは、従来の「Honda SENSING 360」に対し、[…]
国産車黎明期は、「赤」と「白」はパトカーなどの専用色だった ボディカラーにこだわってクルマを選ぶ人は、珍しくないでしょう。とくに女性には、購入の動機に色が気に入ったからと答えるユーザーは多く、それに応[…]
SUVライクな外観で差別化された「クロスター」 新型フリードの中でも注目されるのが、SUVテイストを加えた個性派モデル「フリード クロスター」。専用のデザインや装備を備え、街乗りからアウトドアまで幅広[…]
クーペのかっこよさと手頃な価格水中メガネの愛称で人気者に ホンダが1967年春に発売したN360は大ヒットし、軽自動車ブームの火付け役になった。N360が街にあふれるようになると、並みの軽自動車では飽[…]
外装塗装の変更に伴い、価格改定も実施 今回実施される一部改良では、シビックRSやフリードに導入されている新たな外装塗料を採用。塗料に使用するクリア材を、従来のアクリルメラミン素材から、より機能が向上し[…]
最新の関連記事(ホンダ)
先進安全装備に加えエクステリア/インテリアにも専用装備を設定 新搭載される「Honda SENSING 360+」と名付けられた運転支援システムは、従来の「Honda SENSING 360」に対し、[…]
国産車黎明期は、「赤」と「白」はパトカーなどの専用色だった ボディカラーにこだわってクルマを選ぶ人は、珍しくないでしょう。とくに女性には、購入の動機に色が気に入ったからと答えるユーザーは多く、それに応[…]
SUVライクな外観で差別化された「クロスター」 新型フリードの中でも注目されるのが、SUVテイストを加えた個性派モデル「フリード クロスター」。専用のデザインや装備を備え、街乗りからアウトドアまで幅広[…]
クーペのかっこよさと手頃な価格水中メガネの愛称で人気者に ホンダが1967年春に発売したN360は大ヒットし、軽自動車ブームの火付け役になった。N360が街にあふれるようになると、並みの軽自動車では飽[…]
外装塗装の変更に伴い、価格改定も実施 今回実施される一部改良では、シビックRSやフリードに導入されている新たな外装塗料を採用。塗料に使用するクリア材を、従来のアクリルメラミン素材から、より機能が向上し[…]
人気記事ランキング(全体)
ベース車両は日産のNV200バネット 日産「NV200バネット」は、2009年に登場した小型商用バン。全長4400mm、全幅1695mmという取り回しのしやすいサイズ感で、都市部でも扱いやすいことが大[…]
ベース車両はダイハツのハイゼットカーゴ ハイゼットカーゴキャンパーの魅力は、軽自動車ならではの取り回しの良さと維持費の安さにある。コンパクトな車体は狭い路地や駐車場でも扱いやすく、女性ドライバーやシニ[…]
ラグジュアリーと機能性を融合した“移動する部屋” 「escort」は全長5380mm、全幅1920mm、全高2390mmと、堂々たるボディサイズを誇るハイエースキャンパー。乗車定員は4名、就寝定員も4[…]
大人3人+子ども3人が就寝可能な“住める空間” 最大の魅力は、その就寝スペースだ。ベッド展開をフルに活用すれば、大人3名と子ども3名が同時に就寝できる。チャイルドベッドは120×160cm、メインベッ[…]
ボディサイズは現行型とほぼ同等。シリーズ初のGRスポーツを投入 まず、各スタイルの個性の違いを明確に打ち出しているのがフロントマスクのデザインだ。3つのスタイルとも、細くシャープなヘッドランプを採用し[…]
最新の投稿記事(全体)
燃料でもマルチパスウェイ戦略を! トヨタがS耐富士24時間レースでで“液体水素”と“低炭素ガソリン”のダブル挑戦する根底にあるのは、「モビリティの未来は1つの道ではない」というトヨタのマルチパスウェイ[…]
スーパー耐久出場を目指すドライバーのための耐久レース入門カテゴリーの創出 S耐チャレンジは2025年1月の東京オートサロン2025のなかで行われたSTMOの公開理事会のなかで構想が発表された。その構想[…]
生産規模を約3300台に増やすことで、供給不足の早期解消を図る スズキの新型ジムニーノマドは、1月30日の発表からわずか4日間で約5万台もの受注を獲得。これは月間計画販売台数1200台の約41か月分に[…]
草木の緑がどんどん濃くなって、躍動感にあふれるこの時期。春から夏に向かうちょうどいい気候だからこそ、クルマ&ドライブ好きの方におすすめしたいのが峠道を通るドライブ。 峠道と聞くとどうしてもガンガン攻め[…]
現代技術と伝統が融合 ─ ハイブリッドで蘇るヘリテージ ポルシェ911スピリット70のベースとなるのは、高効率なパフォーマンスハイブリッドを搭載した現行の911カレラGTSカブリオレ。新開発の3.6リ[…]
- 1
- 2