
インドで先に発表されていたスズキ ジムニーの5ドアロングボディ車。その日本導入が正式に発表された。そのサブネームにはスズキが大事に温めていた「ノマド」が与えられるなど、その期待の高さは明らか。2018年の登場以来、常にバックオーダーを抱えている人気者のジムニー&ジムニー シエラと同様に、大ヒットするのは間違いなさそうだ。
●文:横田晃(月刊自家用車編集部) ●写真:奥隅圭之
シエラに比べると、かなり立派になったボディに惚れ惚れ
「ジムニー ノマド(以下ノマド)」と名付けられた5ドアのジムニーを待ってました! という人も多いのではなかろうか? 古くからのスズキ好きには懐かしく思える「ノマド」というサブネームは、バブル真っ盛りの1990年に登場した、初代エスクードの5ドア車につけられていたもの。本格クロカンを求めていたファンから熱視線を浴びたことでも知られるモデルの名前を復活させたことからして、現代に甦ったノマドも、相当気合いの入った4WD車に仕立てられているのは明白だ。
まず、その概要を紐解いていくと、ノマドは軽自動車ではなく登録車。全幅は軽のジムニーと同じ3ドアボディにオーバーフェンダーを与えて全幅1645mmとしたジムニー シエラ(以下シエラ)と同じだが、ホイールベースと全長を340mm延長。全長は3890mmと、国産コンパクトSUVの中では最小クラスであることは変わらないが、シエラと比べるとその違いは歴然。かなり立派になったといっていい。
| モデル グレード名 | エンジン | 駆動方式 | トランスミッション | 燃料消費率 WLTCモード | 価格 |
| ジムニー ノマド FC | 1460cc直列4気筒DOHC (102ps/13.3kg-m) | 4WD | 5速MT | 14.9km/L | 265万1000円 |
| 4速AT | 13.6km/L | 275万円 |
主要諸元(ジムニー ノマド FC AT車) ●全長×全幅×全高(mm):3890×1645×1725 ●ホイールベース(mm):2590 ●最低地上高(mm):210 ●車両重量(kg):1190 ●乗車定員:4名 ●パワーユニット:1460cc直4DOHC(102ps/13.3kg-m) ●トランスミッション:4速AT ●WLTCモード総合燃費:13.6km/L ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)ベンチレーテッドディスク(R) ●サスペンション:3リンク式(F)3リンク式(R) ●タイヤ:195/80R15 ●価格:275万円
車両周辺の状況を把握しやすいスクエアボディ。ノマドはホイールベースが延長されロングボディとなったことで、最小回転半径は5.7m(シエラは4.9m)と小回り性能は落ちてしまったが、キャビンスペースの拡大や走行安定性の強化など、それに見合う進化を遂げている。
無骨でシンプルなメカニズムの魅力も健在
メカニズムまわりでは、ノマド専用に新設計されたラダーフレームがポイントのひとつ。軽のジムニーやシエラで採用されているものをベースに、センターフレームを延長して中央部にクロスメンバーを追加することで、強靭さを損なうことなくホイールベースを無理なく拡大させることに成功している。これにより、フレームの上に載せるハコ(ボディ)が長く大きくできたことで、キャビンスペースが増加。これがノマドの大きな武器になっている。
3ドアのシエラに比べると、ノマドはキャビン&ラゲッジが拡大したことで、ユーティリティ性能も強化。さすがに広々というわけではないが、実用性が向上したことで、コンパクトSUVの選択肢として選べる! と感じるユーザーも多いはずだ。
ただ、変わっていないところも多め。その典型といえるのがパワートレーン系だ。
従来のシエラと同様に、1.5Lの直列4気筒の縦置きエンジンのFRをベースに、前輪への駆動力の断続を高低2段の副変速機で切り替える、古典的なパートタイム4WD方式。トランスミッションも5速のMTと今どき4速のATという、ひと時代前とでも言えそうなシステムのまま。
1.5L直4エンジン(K15B)を搭載。スペックは102ps/13.3kg-m。フロンクスにも採用されている出力と経済性のバランスに優れる新世代エンジンだが、フロンクスは横置きに配置されるに対して、ノマドでは縦置きに配置される。
さらに前後のサスペンションも、3つのリンクで位置決めしたリジッドアクスル式。はっきり言って、街乗りでの乗り心地/ハンドリング/高速安定性は、似たような全長でも乗用車ベースのモノコックボディと独立サスペンションを備える、同じスズキのフロンクスにかなわない。
ただ、ノマドを含めたジムニーシリーズは、そのメカニズムのすべてがホンモノのオフロードカーの実力を裏書きする“ストーリー”になっていることが魅力。
舗装路(オンロード)走行には向かない直結方式ゆえに、路面に合わせて駆動方式を切り替える“儀式”を必要とする4WDシステムや、高速道路の轍で進路を乱されることもあるリジッド式のサスペンションは、モノコックボディに独立サスペンションの乗用車ライクなSUVでは、手も足も出ない極悪路を走破するためには必然なもの。
その強烈な個性と実力をフルに使いこなせるユーザーは多くはないかもしれないが、だからこそ「ジムニー シエラはドイツの森林レンジャーの足としても活躍しています」というエピソードに、「メルセデスベンツGクラスの出番じゃないんだ…」とニヤリとできてしまう。日本の公道では絶対に使いきれない高価なスーパーカーを持つのと同じ種類の歓びを、この小さなオフローダーは感じさせてくれる。
「ジムニーが欲しいけれど、この狭さは…」悩んでいたユーザーにとっては待望の救世主
その一方で、340mm延長の恩恵で十分な広さを得たノマドの後席の乗降性や居住性は、そんなストーリーのロマンを理解できない家族を説得できる武器になるのは間違いない。つまり購入の障壁は、3ドアのシエラよりずっと低いはず。
中央に2DINスペースを配置するシンプルなレイアウトや操作感に優れるスイッチ類の配置など、ジムニーシリーズに共通する優れた機能性は引き続き踏襲。華美な印象は薄めだが、ジムニーを名乗るモデルにはこんな硬派なキャビンが似合う。
フロントミッドに近い位置のエンジン配置もあって、前席の位置はかなり後ろ気味。ただ、これがジムニー独自の運転感覚を生み出す理由のひとつで、オーナーからも高く評価されているポイントになる。さらにノマドは後席の余裕ぶりも見どころ。シエラに比べて後席のヒップポイントを50mm後方に移動したことや、後席乗員間距離を90mm拡大することで、後席乗員の居住性が改善されている。
衝突被害軽減ブレーキのデュアルカメラブレーキサポートを標準装備し、増加した車重に合わせてフロントブレーキをベンチレーテッドディスク化(シエラはディスク)したり、AT車には3ドアでは設定のなかった後退時ブレーキサポート/後方誤発進抑制機能/アダプティブクルーズコントロールまで標準装備するなど、細かいところまで目配りされたノマドは、世界でもかなりの人気を集めるだろう。
安全&運転支援機能が最新仕様にアップデートされたことも嬉しいポイント。とくに4速AT車はACC/後退時ブレーキサポート/後方誤発進抑制機能までカバーされるなど、ふだん使いでも便利さを実感できる実用モデルに進化している。
ちなみにノマドの月予定の販売計画台数は1200台と、生産ラインの融通が難しいラダーフレーム車なのに、それなりに台数を頑張ってくれているのは本当に偉いと思うが、それ以上の人気を集めるのは確実。軽のジムニーやシエラの時と同じように、入手困難なモデルになってしまう可能性は極めて高そう。待っていたユーザーは、一刻も早くスズキのディーラーに足を運んで、商談&契約を行ってほしい。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ジムニーノマド)
正式受注前でも、ディーラーで購入希望を伝える意味はありそう ジムニーノマド(以下ノマド)は、2025年1月30日の発表からわずか4日間で、月間計画販売台数1200台の約41か月分にあたる約5万台もの受[…]
生産規模を約3300台に増やすことで、供給不足の早期解消を図る スズキの新型ジムニーノマドは、1月30日の発表からわずか4日間で約5万台もの受注を獲得。これは月間計画販売台数1200台の約41か月分に[…]
ジムニーノマドにポップアップルーフ! 現代の遊牧民を体現できる! 2025年4月に発売が開始されたスズキ•ジムニーノマドは、ジムニー本来の悪路走破性は犠牲にせず、大人4人が快適に乗車できる5ドアボディ[…]
ロングホイールベース化された5ドアジムニー ジムニー ノマドの最大の特徴は、ホイールベースを従来より340mm延長し、5ドア化した点にある。全長3,890mm、ホイールベース2,590mmという寸法は[…]
ジムニー5ドアを独自輸入し、作り上げたカスタムカー 日本では1月30日に国内仕様が発表され、その後、発表4日にして受注ストップとなってしまったジムニーノマド。ジムニーの5ドアを待ち望んでいたユーザーが[…]
最新の関連記事(SUV)
佳き時代の面影を残す、ルーフラゲッジとスペアタイヤホルダーを特別装備 Gクラスはクロスカントリービークルとして誕生以来、基本的なスタイリングと堅牢なボディを保ちながら進化を続けており、2024年発表の[…]
「堂々・威厳」をデザインコンセプトに開発 このCR-V用純正アクセサリーは「堂々・威厳」をデザインコンセプトに開発。スポーティーで洗練された印象の「アーバンプレミアム」と、さらなる風格とタフな存在感を[…]
内装イルミで夜間の快適性を大幅に向上 今回の一部改良では、より上質な室内空間を目指して室内の造形や素材の美しさを際立たせる64色のイルミネーションを新規採用したインテリアイルミパッケージを導入。 さら[…]
究極のオールラウンダーとして開発された最上級SUV 6代目となる新型CR-Vのグランドコンセプトは「感動CR-V」。「SUVだから」という妥協を一切排除し、相反する価値である快適性・走行性・ユーティリ[…]
納車はFWDが2026年1月末、AWDが同年3月を予定 今回導入される「BYD SEALION 6」は、国内導入第5弾モデルであり、電気を主役にしたハイブリッドSUVとして投入される。 このモデルは、[…]
人気記事ランキング(全体)
冬のエアコンは“いきなり全開”が一番ムダになる理由 冬の朝は車内が冷え切り、シートもハンドルも硬く感じる。そんな状況で暖房を思い切り上げてしまうドライバーは少なくない。しかし、暖房はエンジンの排熱を利[…]
見た目からは想像できない“意外性の塊”のカーアイテム インターネットでカーグッズを探っていると、ときどき用途が想像できない奇妙な形のアイテムに出会うことがある。TOOENJOYの「ドアステップ103」[…]
わさびを主成分とした抗菌剤で、エアコン内部のニオイを抑制 エアコンフィルターに装着して除菌消臭効果を格段に向上させるという製品が、自動車部品のグローバルメーカーValeoのわさびデェールだ。この製品は[…]
なぜLEDライトは雪を溶かせないのか? LEDヘッドライトが普及の中心に座り始めて久しい。高い光量と応答性、寿命の長さなど、多くのメリットがあることは自動車好きなら説明不要だろう。しかし冬の寒さが深ま[…]
電子ミラーの限界を、物理ミラーが補ってくれる 近年、採用する車種も増加傾向にあり、市場の大きく成長しているデジタルルームミラー。日本だけでなく、海外でもルームミラーのデジタル化は進んでいるようだ。 デ[…]
最新の投稿記事(全体)
目玉の「ミゼットX 大阪Ver.」には、ダイハツの地元を象徴する大阪城マークを採用 出展テーマは“わたしにダイハツメイ。小さいからこそできること。小さいことからひとつずつ。”とし、「わたしにぴったり」[…]
BEVでも「走りの楽しさ」は深化できる このモデルはマスタードライバーを務めるモリゾウ(豊田章男会長)の「クルマ屋が残していくべき技術・技能を次の世代に受け継がなければならない」という強い想いのもと、[…]
モータースポーツを起点とした「もっといいクルマづくり」を結集 今回、TGRが発表した2台のハイパースポーツは、TGRが目指している「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を深化させ、GR[…]
トヨタのレジェンドモデルが高速走行を繰り広げる! 今回発表された「GR GT」は単なる新しいスポーツカーではない。TOYOTA 2000GT、Lexus LFAと続いてきた系譜を継ぐ、トヨタの思いが込[…]
固着したネジが動かない…作業を止める小さな“壁” どれほど簡単な整備手順でも、一本のネジが固着しているだけで作業は急に難しくなる。サビが食い込み、雨ざらしのボルトが内部で膨張し、樹脂パーツとの隙間に汚[…]
- 1
- 2






































