
クルマに関する技術で、今、大きな注目を集めているのがSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)だ。いったい、どのような技術であり、その実現によって、どういう変化が生まれるのか? また、自動車メーカーやサプライヤーは、どのように対応しているのか。フランス発の世界的サプライヤーであるヴァレオがSDVに関する勉強会をメディア向けに開催した。その内容を紹介しよう。
●文:鈴木ケンイチ
現在の自動車ビジネスは、大きな変革期を迎えている
「今、私たちのビジネスで根本的な変化が発生しています」と説明を始めたのがヴァレオグループ・グループSDV副社長のデレク・ド・ボノ氏だ。現在の自動車ビジネスは「台数が右肩上がりに増える時代が終わる」「車両価格の上昇」「新しいプレイヤーと新しいソリューションの登場」「消費者の期待」という変化に際しているという。
新しいプレイヤーとは、テスラやBYDといった新興の自動車メーカーであり、さらにシャオミやシャオペン、リヴィアンといったベンチャー系の自動車メーカーも含まれる。
そうした状況下で、クルマのソフトウェアの進化は加速するばかりだ。AI技術が登場したことも、その傾向に拍車をかけている。具体的には、自動運転技術の進化と普及、音声対話型のAIスピーカーなどのAIを使ったサービスなどが挙げられる。
ソフトウェアの力で、購入後も進化し続ける“自動車”が当たり前に
こうしたソフトウェアの進化に対して、車両というハード側も進化して必要がある。具体的には、クルマの各所に設置された小さなECUを集約するという動きだ。現在は、パワートレーン系やADAS、カーナビ、インフォテイメント系がバラバラのECUで制御されている。それを、最終的には外部のサーバーと通信するセントラルコンピューターと、2~3のゾーンコントローラーという構成になるだろう、とヴァレオのデレク氏は説明する。
そんな中で生まれた新しい考えがSDVだ。SDVとは「Software Defined Vehicle(ソフトウェア定義車両)」の略称であり、ポイントはクルマを構成するハードウェアとソフトウェアの2つを分離するところにある。
従来のクルマは、ハードウェアとソフトウェアのライフサイクルが同じであった。新車で販売されたときのハードウェアとソフトウェアが最も新しく、廃車になるまでそのまま使われていた。それに対して、SDVはハードウェアこそ新車時のままだが、ソフトウェアはユーザーが使用している中で、定期的にアップデートされていく。その更新によってクルマは、常に最新であり続け、ユーザーに最適化され、そして新たな機能を追加することも可能になるのだ。
クルマを購入してからも、ソフトウェアはアップデートを繰り返して進化し続けるという考え方だ。
ただ、このSDVで重要となるのは、ソフトウェアを作り続けなければならないということ。ソフトウェアの開発には当然、費用がかかる。それをユーザーから徴収し続けるための新しいビジネスモデルも必要となる。
こうしたSDVが実現することにより、自動車メーカーのビジネスは大きく変化する。従来のビジネスは、クルマを開発して生産するまでに投資をして、新車販売によって投資分を回収するというものであった。
ところがソフトウェアを更新し続けることになれば、新車販売後も継続的な収入が生まれることになる。製品を買い切りで終わりにするのではなく、継続的に料金を支払う、パソコンとソフトウェアのような製品にクルマが変わることを意味するというわけだ。
ここで、気になるのは、パソコンとは違ってクルマは、もっと長いスパンで使われるというところだ。この不安を解消すべく、UNレギュレーション(国連の規則)では、新車販売後15年にわたってセキュリティ等に関して自動車メーカーが責任を取ることが求められている。
またヴァレオとしては、進化するソフトウェアに対応するべく、車両に搭載されるセントラルコンピューターに拡張性を持たせるアイデアも提案しているという。これは半導体(SoC)やメモリが性能不足になれば、新たな半導体やメモリを追加して補おうする考え方だ。後付けでグレードアップできる点はとても新しくてユニークに感じられる。
「追加費用が発生しても、アップデートをしたくなる」そんな付加価値をどう生み出すか?が課題
こうしたSDVの実現に対する課題は大きくあげると2つある。ひとつは「クルマをどうデザインするのか」ということ。従来とは異なる開発のアプローチが必要になる。そして、もうひとつが「ビジネスモデルをどう構築するか」という問題だ。
こうした課題に対する、特に「クルマをどうデザインするのか」という問題に対して、ヴァレオは「ヴァレオ・アンサー(VALEO anSWer)」という回答を提示している。
その内容は、多岐にわたるソフトウェアの開発技術であり、デジタルサービスとなる。クラウド技術とヴァーチャル技術などを使った、ソフトウェアの開発技術とサービス技術は、すでにBMWやルノー、GMといった自動車メーカーにも採用されている。1月にラスベガスで開催されたCESや、5月に横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展」では、そうした「ヴァレオSDVエコシステム」と呼ぶ、開発システムも公開されている。
「人とくるまのテクノロジー展」で国内初披露された「ヴァレオSDVエコシステム」の概念図。車両に搭載されるvOSミドルウェアがソフトウェアの中核基盤となり、OTAでのアップデートに対応する。
また、「ビジネスモデルをどう構築するか」という課題も大きな課題だ。ユーザー目線でいえば、クルマを購入した後も、費用が発生し続けるのは、正直、嬉しくない事態といえる。そうしたユーザーを納得させるだけの、今はない新しいプラスアルファの機能やサービスが必要になるだろう。そんな大問題に対しては、ヴァレオのようなサプライヤーだけでなく、自動車メーカー、GAFAのようなIT企業も含めた業界全体での取り組みになると、デレク氏はいう。
ソフトウェアの更新によりさまざまな費用が発生するものの、それらを上回る魅力を生み出せるかどうか。そこがSDVにとって重要なポイントになるだろう。
「人とくるまのテクノロジー展」では、ソフトウェア開発の一連のプロセスを実演。注目を集めていた。
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