日本を代表する幻のスポーツカーが初めて全輪に採用。進化し続ける自動車の重要なパーツの歴史を紐解く。│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

日本を代表する幻のスポーツカーが初めて全輪に採用。進化し続ける自動車の重要なパーツの歴史を紐解く。

日本を代表する幻のスポーツカーが初めて全輪に採用。進化し続ける自動車の重要なパーツの歴史を紐解く。

クルマのメカニズム進化論 ブレーキ編(1)〜ブレーキの進化〜
ドラムブレーキにはブレーキシューが備わっている。語源は“Shoe”。まさにその名のとおり初期の自動車のブレーキは靴のような形をしたブレーキシューを手動レバーで大きな鉄の車輪に押しつけていたのだ。
※この記事は、オートメカニック2017年7月号の企画記事を再編集したものです。

●文:オートメカニック編集部

1895年に製造されたベンツの後輪ブレーキ。手で操作するレバーでシューを車輪に押しつけるものだった。馬車に使われていた原始的な制動装置を引きずっていた。

自動車用の初期ブレーキは、駆動軸にドラムを固定し、足踏み式のバンドによる締め付けで制動力を得ていた。

馬車の時代からブレーキというものは存在していた。大きな車輪に靴のような“シュー”を押しつけるもので、レバー比を大きく取ったレバーによって、手動で操作した。

その手法はベンツとダイムラーによってガソリン自動車が実用化されてもしばらく踏襲されたが、次なる方法が考案された。駆動軸にドラムを固定し、それを足踏み式のバンドによって締め付け、制動力を得ようというものだ。

この方式にも欠点はあった。ドラムは水や泥にまみれる。制動力のムラが起こり、定期的な整備も求められた。この欠点を解消するものとして登場したのが今につながるドラムブレーキだ。ドラムの中に一対のシューを入れ、それを押し開いてドラムに押しつけることで制動力を発生させる。

1928年製キャデラックのブレーキシステム。既にドラムブレーキが実用化されていたが、油圧システムの登場はまだ先のことで、レバーとケーブルで構成されていた。

ブレーキの進化、ケーブル式から油圧式へ

ドラムブレーキは水、泥からの弊害がなく、ブレーキシステムの主流に躍り出る。シューを押し開く原動力は足の力であることは今も変わらないが、初期のその力の伝達はケーブルとレバーによって行われた。上の図はGMのアーカイブスに保管されているものだが、1920年代のブレーキシステムがよく理解できる。

自動車の高速化と共にブレーキの性能向上が求められ、油圧式が登場する。それに伴ってブレーキ踏力を軽減するブースターも後に考案され実用化される。

ドラムブレーキの基本方式にも進化があった。シューの下端にピボットを設け、上部を押し開くリーディングトレーリング型から出発したが、上下にピストンを設けた2リーディング型が考案された。

この方式では二つのシューに制動力の差が現れにくく、前輪用の主流となる。リーディングトレーリング型は前進でも後退でも制動力に差が出にくいことから、パーキングブレーキを併用する後輪に採用されていく。

1950年代まではドラムブレーキの時代だったが、1952年、飛行機で実用化されていたディスクブレーキが自動車レース用として登場する。ジャガーがまずダンロップ社製をCタイプの前輪に採り入れ、1954年にはアストンマーチンがDB3S/1にロッキード社製を装着した。

量産市販車ではシトロエンがいち早くDS19にディスクブレーキを採り入れた。ジャガー、アストンマーチンのそれが固定キャリパー式だったのに対し、シトロエンは浮動式。1955年に登場したDS19は現在のブレーキシステムの元祖ともいえる。

国産車ではいすゞが市販車にいち早く採り入れた。1964年に製造されたベレットGTの前輪に採用したのだ。

同年代にはスカイラインGT、シルビア、フェアレディ、コンテッサ1300クーペなどもディスクブレーキを導入。1967年に登場したトヨタ2000GTは4輪にディスクブレーキを備えていることで注目された。

1954年製のベンツSLのブレーキ。フロントには固定キャリパー式ディスク、リヤにはフィン付きドラムが装着されていた。当時の最先端を行くものだった。

1974年から製造された2代目ポルシェ911のブレーキシステム。前輪にベンチレーテッドディスク、後輪にはドラムインディスクが採用されている。

国産市販車で初めて前輪にディスクブレーキを採用したいすゞ ベレットGT。デザイン、性能共に先端を行くもので、マニア垂涎のGTカーだった。

レース出場のためのホモロゲーションモデルにまず採用し、1965年に市販スカイラインGTのフロントにディスクブレーキが採用された。リヤはドラムのままだった。

1967年から製造されたトヨタ2000GT。先端を行くエンジン、サスペンション、シャシーが採用されたが、ブレーキも国産で初めて全輪にディスクが採り入れられた。

進化を続けたブレーキ、安全システムの一環へ

ベンチレーテッドディスクの採用、無公害ディスクパッドの使用、ディスクローターの拡大、セラミックやカーボンディスクの採用など、ブレーキは進化し続けている。最も大きな変化は自動車全体の安全システムの中にブレーキが組み込まれるようになったことだ。

ABSに端を発したブレーキ油圧制御はアクティブセーフティ・ブレーキシステムへと進化し、車両安定制御にも関わるようになった。さらに各輪の制動力を調整することでコーナリング性能を向上させるものまで現れた。これから普及が期待されている自動運転にとっても、ブレーキは最も重要な課題だ。

ブレーキは単に自動車を止める制動装置から、エンジン、サスペンション、トランスミッションと統合されたシステムへと進化した。

ディスクブレーキのバリエーション。高性能車では冷却用のベンチに様々な工夫が施され、ディスクの材料もスチールだけでなく、カーボン、セラミックが使われるようになった。写真は左から(1)アウディのセラミック、(2)アウディのウェーブディスク、(3)日産GT-R、(4)ホンダNSXのカーボンディスク。

手動からケーブル式へ、そして油圧式へと進化してきたブレーキだが、次の世代のブレーキとしてモーターアクチュエーター式が登場した。アウディR8が後輪に採用。

モーター式はパーキングブレーキにも採用されている。ホンダは軽自動車N-BOXの後輪に国産軽自動車でもいち早く電子制御電動パーキングブレーキを採り入れた。

※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。