
1994年、空前のRVブームに沸く日本に誕生した日産・ラシーン。「僕たちの、どこでもドア。」をキャッチコピーとしたドラえもんのテレビCMは、当時の温かい空気感とともに多くの人の記憶に刻まれている。四角く角張ったレトロで愛らしいフォルムと、街乗りからアウトドアまでこなせる扱いやすいサイズ感は、今なお色褪せない魅力を放ち続けている。流行に左右されない普遍的なデザインは現代のライフスタイルにも自然と馴染み、近年でも若者を中心に再ブームを巻き起こしているのだ。
●文:月刊自家用車編集部
リアゲート後ろに装備された背面タイヤもオフロードイメージを演出するものだった。
パイクカーシリーズの流れを汲んだコンパクトマルチビークル
少量生産を前提としたパイクカーシリーズは1991年のフィガロで終了したが、ライフスタイルの表現を狙いとした日産の商品企画は、もう一台の量産モデルを生んだ。1994年に登場したSUVテイストのラシーンだ。
ラシーンが誕生した1990年代前半の日本は、大きな社会的な転換期を迎えていた。バブル経済が弾け、高級セダンや派手なスポーツカーによってステータスや見栄を競い合う時代は終焉へ向かいつつあったのだ。その風潮に代わって人々の心を捉えたのが、家族や友人と自然の中で余暇を楽しむ「RV(レクリエーショナル・ビークル)ブーム」だった。
スキー人口がピークを迎え、三菱のパジェロやトヨタのランドクルーザーといった本格的なオフロード4WD車が大ヒットを記録した。反面、そうしたクロスカントリー車(いわゆるクロカン)は車体が大きく重いため、市街地での利便性や、さらには燃費や乗り心地の面で、日常の足として使うにはややハードルが高かった。一般的に受け入れられるコンパクトなRVテイストのクルマ、日産がここに目をつけ、登場させたのがラシーンなのだ。
当時、クロスカントリー4WDモデルに装着されていたグリルガードも装備。オフロード車的な雰囲気は十分だった。
タイプII以上のグレードに装備された背面のスペアタイヤやルーフレールは、さらにRVテイストを強調していた。
ダッシュボード周りも外観と同じく、水平・垂直がきっちり揃った直線基調(T字型)でデザインされている。余計な丸みがないため、運転席からの視界が良く、車両感覚が掴みやすいという実用的なメリットもあった。
7代目サニーの4WD用プラットフォームを採用、走りも充実
7代目サニーの4WD用プラットフォームに、角ばった、レトロ調デザインのボディを組みあわせたそれは、当初1.5Lが用意され、のちに1.8Lと2Lの搭載車も登場した。駆動方式は全車4WDで、1.5Lはビスカスカップリング方式。1.8Lと2Lはセンターデフとビスカスカップリングを組み合わせて可変トルク配分を可能とした日産自慢のアテーサとされ、スポーツ走行も可能だった。
そのデザインには、Be-1やパオ、フィガロといった日産の伝説的な「パイクカー」シリーズを成功に導いたコンセプターの坂井直樹氏が関わっている。流線型でスポーティなデザインが主流となりつつあった当時のトレンドとは真逆を行く、直線を基調としたレトロでカクカクとしたスタイリングを採用。あえて無骨でありながら、どこか温かみや愛嬌を感じさせるその姿は、1993年の東京モーターショーに参考出品されるやいなや、来場者から市販化を望む熱狂的な声を集めたのだ。
ドラえもんの「僕たちの、どこでもドア。」CMで人気者に
ドラえもんを実写化して登用したCMは、どこかノスタルジックで穏やかな風景の中を、四角いラシーンがのんびりと、かつフルタイム4WDの力強さでしっかりと走っていく。そこに添えられたキャッチコピーは「僕たちの、どこでもドア。」というものだった。本格的なオフロードで泥まみれになりながら険しい山道を乗り越えるのではなく、いつもの街角から少しだけ足を伸ばして、お気に入りの道具を積んでピクニックやデイキャンプへ出かけたくなる車。そんな「日常の延長線上にあるささやかな冒険」というコンセプトを、ドラえもんのひみつ道具に見立てて見事に表現し、若者からファミリー層まで多くの人々の共感を呼んだ人気者だったのだ。
ラシーン フォルザ
1998年に追加された2.0Lモデルの「ラシーン フォルザ(FORZA)」では、丸目4灯ヘッドライトと専用の縦型グリルが採用され、より個性的でスポーティーな顔つきになっている。
垂直に切り立ったフロントガラスや側面の窓のおかげで圧迫感が少なく、独自の心地よい開放感が得られた。
B13型サニー4WDのシャシーを使って造られたラシーン。テールゲートは上下2段開き、スクエアボディの恩恵で車内や荷室も広い。パイク
カー的ではあったが実用性も高かった。
ラシーンタイプA
主要諸元(タイプⅡ・ 1995年式)
●全長×全幅×全高:4115㎜ ×1695㎜ ×1515㎜ ●ホイールベース:2430㎜ ●トレッド(前/後):1440㎜ /1415㎜ ●車両重量:1210㎏ ●乗車定員:5名●エンジン(GA15DE型):水冷直列4気筒SOHC1497㏄ ○最高出力:105PS/6000rpm○最大トルク:13.8㎏ ・m/4000rpm●燃料タンク容量:50L●10・15モード燃費:12.8㎞ /L●最小回転半径:5.2m●トランスミッション:4速オートマチック ●サスペンション( 前/後):マクファーソンストラット式独立懸架/パラレルリンクストラット式独立懸架●タイヤ:185/65R14 86S ○価格(東京地区):196.3万円
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