
トヨタ・VWに次ぐ世界3位の自動車メーカーとなるヒョンデグループを支えるキアが、BEVバン「PV5」で日本に上陸した。創業の歴史から最新のロボット工場、徹底した性能試験まで、その強みと魅力の原点を取材陣が現地からルポする。
●文:月刊自家用車編集部(まるも亜希子) ●写真:Kia PBV ジャパン
ついに日本に上陸したキア。先進のBEVバンに注目
トヨタ、フォルクスワーゲングループに次いで世界第3位の自動車メーカーにまで成長したヒョンデ(現代・HYUNDAI)グループ。その一翼を担うブランドがここで紹介するキア(起亜・KIA)だ。本国・韓国や欧州で昨年発売されたBEVバン、PV5が韓国メーカーとして初めてバン・オブ・ザ・イヤーを獲得するなど高い評価を得ており、今年5月にはついに日本上陸を果たした。
このPV5は、新しいプラットフォームをベースに車体をブロックのように組み立てる新しいモジュール式となっているのが大きな特徴。PBV(プラットフォーム・ビヨンド・ビークル)という新発想から生まれたモビリティなのだ。
この新しいモデルがどのような背景から誕生し、これからの未来をどのように支える存在となっていくのだろうか。今回は幸運にも、韓国にあるキアのさまざまな拠点を見学できたため、そこで感じたことなどをリポートしたい。
最初に訪れたのは、キアのヘリテージを学べる「VISION SQUARE」。実はキアは日本とも関係が深く、創業者は日本で自転車づくりを学んだのち、韓国初の国産自転車「3000里号」を1952年に完成させた。
韓国で生産された自転車、3000里号。日本とのつながりが深いところに親近感を覚える。
その後、東洋工業(現マツダ)との技術提携を経て1962年に三輪トラック「K360」、1974年に四輪乗用車「ブリザ」へと進化していく。ブリザは「国民車」と呼ばれるほどの大ヒットとなったが、韓国では1981年に乗用車の製造禁止令が発令されたため、商用車をメインに舵を切ることになった。
キアは、先んじて1980年にマツダ「ボンゴ(2代目)」の製造を韓国国内でスタートさせており、商用としてはもちろん、ファミリーユースとしても大いに人気を博した。のちに韓国におけるバンの代表格へと成長したが、このボンゴで培ったノウハウが新時代の商用車PV5に継承。最新テクノロジーの積極採用や厳しいテスト、徹底した品質管理といったさまざまな側面で活かされている。
KIAが生産したマツダのボンゴが人気を博し、ビジネスはもちろんレジャーなどでも人々の生活を支えた。
バンということで実用性が優れていることは当然のことだが、PV5はその秀逸なデザイン性も見逃せない特徴のひとつと言える。これは2021年にキアがブランドのリローンチを行った際、強く訴えた「デザインはキアの文化」という考え方が息づいているからだ。
次に訪れたのはファソン工場「AutoLand Hwaseong」。世界の9か所で約380万台を生産するキア最大の拠点で、PV5のために建設された最新鋭の「EVOプラントEast」を見学することができた。
機密事項が多いためスマホやカメラをはじめ電子機器の持ち込みはすべてNG。そのため掲載はオフィシャル写真のみとなるが、実際に入ってみると工場とは思えない静かさとほとんど人がいない光景に驚いた。
既存の工場のように天井から車体を吊り下げるベルトコンベアがなく、すべてAGV(自律走行ロボット)によって地下を通す「セル生産方式」を採用。取材時は21基のAGVと261基のロボットが稼働しており、私たちは遭遇できなかったが四足歩行ロボット「Spot」も稼働しているという。これはヒョンデ・グループのロボティクス技術を活用したもの。CES2026で注目を浴びた人型ロボット「Atlas」も2027年には北米工場から導入されていくという。
最後の検査工程こそ人の手で行われていたが、溶接工程は100%自動化済み。そのほかの繊細な動きを要する取り付け工程でも、アームにビジョンカメラが搭載されたロボットが的確に位置や部品スペックを認識し、作業を器用にこなしているのを目の当たりにした。現在、PV7やPV9用の新たなEVOプラントも建設中で、完成すれば現在の10万台にプラスして約15万台の生産能力を持つという。このスピード感は、激化する未来のモビリティ競争に勝ち抜くための強い武器となりそうだ。
一方、続いて訪れたのはヒョンデ・グループの研究開発拠点「ナムヤン研究所」だった。約100万坪という広大な規模にさまざまな研究室やテストコースが置かれており、私たちはBEVにとって欠かせない熱エネルギーの総合研究室で、外気温-40度から60度という環境でのPV5の耐久試験を見学できた。実際に-20度のテストを行っている実験室内に入ってみたが、一瞬で全身がガクガクしてくるほどの寒さの中、ガラスの湿気や車内の暖房が維持できているかどうか、バッテリー温度の変化などさまざまなデータの確認が行われていた。
極寒の世界を再現した実験室。車内暖房やバッテリーの状態などをモニタリングしている。
さらに、航続距離に大きな影響を与えるエアロダイナミクスの試験場も見学。直径8.4mという巨大なファンが強風を起こす中、ベルトコンベアのようになっている床面を動かすことで最高200km/h走行中の状態を再現できるようになっている。ここで得たデータを活用し、PV5は空力に不利なバンでありながら、Cd値0.29を達成。この優れた空力性能が528km(PV5カーゴ)という一充電走行距離の長さにも貢献しているのは間違いない。
高速走行時の車体周辺の気流を緻密に計測。走行抵抗になりやすいバン形状ながら、PV5が優れたCd値を達成しているのはこういった地道なテストの積み重ねによるものだ。
また、小さなクローズドコースではあったが、PV5パッセンジャーに試乗することもできた。高い安定感と乗り心地のよさを体感。波状路や凹凸路では、振動が長引かずスッといなすしなやかさにも感心した。
各施設を訪ねて感じたのは、PV5が一朝一夕に誕生したものではなく、キアが地道に歩んできた歴史と、時代を先取りする先進技術の双方を注いだ結果だということ。開発陣の熱意が感じられるPV5はその実力も一級品。日本でもさまざまな社会課題を解決する突破口となってくれることだろう。
乗用使用を考慮したPV5パッセンジャー
乗員に配慮して、グラスエリアが大きく確保されているのが特徴だ。
後部がカーゴルームになっているのがパッセンジャーと異なる。
リヤゲートの形状もパッセンジャーとは異なる。頻繁に荷物の積み下ろしを行うことが前提のため、左右に開くタイプとなっている。
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