
スズキから登場した軽乗用クラスの最新BEV「eスカイ」。日常のパーソナルユースに特化し、コスト抑制と実用性を高次元で両立させた注目の1台だが、いちはやく徹底解説&試乗インプレッションしてみた。
●文:川島茂夫 ●写真:奥隅圭之
個人移動に特化した、身近なBEVとして開発
スズキから登場した軽乗用クラスBEV「e-SKY(eスカイ)」。その第一印象を一言で表すなら、まさに「BEV版アルト」だ。
多用途性を最重視して軽乗用市場の頂点に君臨するスーパーハイト系とは異なり、eスカイが採用したのは軽乗用標準の2BOXスタイル。個人移動における過剰な機能を削ぎ落とし、日常の足としての経済性を極めるという明確なセオリーに基づいて開発されている。
全高は1625mmと、数値上はハイト系のワゴンRよりわずか25mm低い程度。スペックだけ見ればハイト系に近いが、床下にバッテリーを敷き詰めているため床面地上高が高く、キャビンスペースとの兼ね合いを考慮すれば「2BOX系」として捉えるのが自然だろう。
室内は男性4名が乗車できる空間を確保しているが、後席はクッションの張りを抑え、乗降性の向上と拘束感の軽減を優先した設計となっている。チョイ乗りには最適だが、高速道路や山道を長時間走るには少々頼りない。この割り切りこそ、いかにもパーソナルユース中心の2BOX系らしいアプローチと言える。
なお、後席の頼りなさと対照的に、前席はしっかりとした保持性を備えた上質な座り心地に仕上がっている。これは後述するハンドリングの良さを体感するうえでも重要なキーポイントとなっている。
実用性重視のなかにキラリと光る先進性
コクピット周りは、タッチセンサーを用いたスイッチパネルなど先進感を感じさせる仕掛けがある一方で、セレクトレバー周りは非常にオーソドックスで機械的なデザインと操作感を残している。
「操作している感覚」が明確に手に伝わる造りのため、先進的というよりは従来通りの安心感を重視した印象だ。レバーやトリム類に樹脂素地のパーツが見られるなど、コスト低減を最優先した設計にも見えるが、昨今の機械部品コストの上昇を踏まえれば実用性とコストのバランスを取った合理的な選択だろう。
なお、質感にこだわりたいユーザー向けには、純正アクセサリーとしてシフトやスイッチパネル周りをドレスアップする加飾パネルが用意されている。ピアノブラック調の光沢仕上げによって質感が1ランクアップし、純正ならではの一体感も素晴らしい。センターディスプレイと一体化したメーターパネル周りとのデザインバランスを考えても、この加飾パネルの装着は強くおすすめしたいオプションだ。
スズキから登場した新型軽BEV「eスカイ」。全高1625mm、モノトーン&ツートンのスタイリッシュな2BOXフォルムは、まさに「BEV版アルト」の趣。日常のパーソナルユースに特化した実用性の高さと経済性が最大の魅力だ。
センターディスプレイと一体化した先進的なメーター周りが目を引くインパネ。タッチセンサーを用いたスイッチパネルが先進感を演出する一方、セレクトレバー周りは機械感のあるオーソドックスな操作感で安心感も両立している。
前席はホールド性に優れたしっかりした座り心地を実現。低重心なBEVならではの走りを存分に楽しめる保持性を備えている。写真は樹脂素地のスタンダード仕様だが、オプションの加飾パネルで質感を高めることも可能。
後席は男性4名が快適に過ごせる広さを確保しつつ、クッションの張りを抑えて乗降性と拘束感の軽減を優先した設計。チョイ乗りには最適だが、高速や山道ではやや頼りない。
想像以上にしっかりとした走りの質感
走行性能における最大の見どころは、その優れた電費効率にある。バッテリー容量は26kWhでありながら、WLTCモードで310kmの満充電航続距離を達成しているのだ。
一般的な内燃機モデルと比較すると控えめに見えるが、他社の軽BEVと比較すると、eスカイの優等生ぶりが際立つ。先行する日産サクラが180km、スポーティなホンダN-ONE e:が295km、BYDラッコ(300系)が320kmというライバル陣に対し、日常使い中心の軽BEVとして300km台の航続距離は十分すぎる性能といえる。
さらに注目したいのがバッテリー効率の高さだ。300km級の航続距離を持つモデルのバッテリー容量を比べると、eスカイの26kWhに対し、N-ONE e:は29.6kWh、ラッコは35.8kWhを搭載している。同等クラスの航続距離をより少ないバッテリー容量で実現している点から、eスカイの電費性能がいかに優れているかが理解できるはずだ。
実際の走りに関しては、最高出力こそ軽規格の自主規制枠内に収まっているため、強烈な加速力やファントゥドライブ的な刺激があるわけではない。アクセル操作に対するレスポンスは電動車らしく滑らかで、唐突感のない扱いやすい加減速マナーに仕上がっている。走行モードで例えるなら、常にノーマル〜エコモードで走っているような扱いやすさと考えてもらえればいいだろう。
そして際立ってくるのがフットワークの良さだ。大容量バッテリーの床下搭載による低重心化と、増えた車重に合わせて適切にチューニングされたサスペンションが、低速から高速まで落ち着きのある挙動をもたらしている。
試乗はサーキットで行われたため荒れた路面での乗り心地までは試せなかったが、車重負けしない腰の強さと剛性感のある揺れ収まりの良さが印象的だった。高速コーナリングからブレーキングで旋回半径を絞り込んでいくような場面でも、挙動が乱れる不安感は一切ない。基本は日常用途に合わせたセッティングでありながら、既存のガソリン2BOX系が苦手とする高速走行や山岳路も難なくこなせる懐の深さを備えている。
また、静粛性については「走行状況や速度感が程よく体感できる静けさ」を狙ったというメーカーの説明通り。ロードノイズは耳障りでない音質に抑えられており、静寂を極めるというよりは「今クルマを操っている」という感覚が心地よく伝わってくる絶妙なチューニングにも好感を覚える。
床下バッテリー搭載による低重心化と適切なサスチューニングにより、低速から高速まで落ち着きのあるハンドリング性能を実現。BEVならでは安定感のある走りは大きな武器になりそうだ。
最高出力は軽規格の自主規制枠内に収めつつ、低重心と適度な車重が生み出す走りの質感は高い。電費効率に優れる26kWhバッテリーを搭載することでWLTCモードで310kmの航続距離を確保している。
3kWの普通充電で約8時間、6kWで約4.5時間(充電警告灯点灯から満充電まで)、50kWの急速充電であれば約25分(充電警告灯点灯から80%まで)と、自宅での夜間充電から出先での急速充電まで素早い充電時間も実現していることも強み。
軽乗用市場の台風の目となり得る存在
パーソナルなタウンカーとしてシンプル&カジュアルにまとめられたeスカイ。しかし、従来の標準系2BOX車と決定的に異なるのは、低重心設計が生み出す「走りの質感の高さ」だ。
航続距離約300kmという特性上、長距離ドライブを頻繁に行う用途には向かないが、しっかりとした運転感覚と高い電費性能は、郊外の住宅地などクルマが生活の足として根付いている地域で強力な武器になる。今後の正式な価格発表とそこから導かれるコスパ次第では、軽乗用市場の台風の眼になる可能性を大いに秘めた1台だと思う。
Apple CarPlayやAndroid Autoに対応し、スマートフォン感覚で直感的に操作できる大型センターディスプレイ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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