
アグレッシブなパフォーマンスは国内よりもむしろ北米で高い評価を獲得し、既存の欧米コンパーチブル勢を押しのけて瞬く間に大人気スポーツの地位にまで上り詰めたフェアレディ。その人気を背景に、日産が海外市場をターゲットに組み込み、来る1970年代をリードすべく新時代の量産スポーツカーとして企画開発されたのが、初代フェアレディZ(S30型)である。ここでは、初代フェアレディZの中でも、高性能ユニットを搭載し異彩を放っていた「432」にスポットを当ててみた。
●文:月刊自家用車編集部
「432」のエンブレムが、このクルマがタダものではないことを物語っている。
スカイラインGT-Rにも搭載されていたS20型エンジン。1気筒あたり4バルブを持つ高性能DOHCエンジンだった。
1960年代も中盤に入ると、ヨーロッパでは長距離旅行にも使用されるグランドツアラーが流行する。その流れは北米にも。
フェアレディZ登場前のフェアレディは、のちにフェアレデーと改名されるダットサン・スポーツ1000(S210系)から、先代のSP / SR310シリーズまで、ボディはコンバーチブルだった。1960年代前半まで、スポーツカーといえばオープンが当たり前で、アメリカでもヨーロッパでも、有名スポーツカーはほとんどオープンだった。
しかし、1960年代も中盤に入ると、ヨーロッパでは長距離の旅行にも使用されるグランドツアラーが流行した。GTと略されるグランドツアラーは、スポーツカーと同等の性能を持つエンジン、シャシーを備えながら、長時間のドライブにも対応した快適な室内空間が確保されているクルマを指す。その流れはアメリカでも同様で、1964年発売のクローズドボディのスポーツクーペ、フォード・マスタングが人気を博し、GMからはシボレー・カマロも登場していた。
クローズドボディとなったフォード・マスタング(1964年)
北米のニーズに応えるため、新世代フェアレディZはクローズドボディのGTスタイルのみが選択された
北米をメインの市場としていたフェアレディは、当初はSP / SRを進化させたオープンモデルを計画していたが、当時のアメリカ日産社長であった、故・片山豊氏より、当時のアメリカ市場でのニーズが伝えられた。1つはオープンカーではなく、クローズドボディのGTカーとすること。2つ目は4人乗りはいらない、2シーターで十分だということ、そして3つ目は単一車種に絞るということだった。
これらの要求に加え、年々厳しくなるアメリカの安全基準に対応するため、新世代のフェアレディZはクローズドボディのGTスタイルが選択された。北米では1969年10月22日に、L24型エンジンを搭載した240 Zの1グレードのみで発売され、初年度だけで4万5000台を売り上げた。
終戦後、当時はまだ日の当たらなかった宣伝業務を志願。50歳にして米国日産社長となり、240Z誕生に大きくかかわったミスターKこと片山豊氏。2015年に逝去、享年105歳。
スポーツカーは企業PRとしては効果的だが商売にならない。そんな定説を覆し日産に多大な利益をもたらしたZは、開発当初から他車との部品共通化で原価を安く抑えることを目指した。とりわけブルーバード510とはシャシーをはじめ多くの共用関係にある。
ベーシックモデルの実に2倍の価格設定であった「Z432」
日本国内での発売は、北米市場より4日早い1969年10月18日。日本国内仕様は1998㏄のL20型エンジンを搭載したベーシックモデルの「Z」、装備を充実させた「Z-L」の他に、高性能グレードとしてS20型エンジンを搭載する「Z432」もラインナップしていた。ベーシックモデルの「Z」が93万円だったのに対し、マグネシウムホイールが標準で装着されているとはいえ、「Z432」は185万円と約2倍の価格設定になっていた。
フェアレディZ432の「432」という数字は、4バルブ、3キャブレター、2カムシャフトを意味している。1969年10月に登場したフェアレディZシリーズの高性能グレードとして設定された432には、他グレードに搭載されているL型ではなく、2L6気筒DOHCのS20型エンジンが搭載されている。
S20型エンジンはご存じの通り、1969年2月に発売された、3代目スカイライン(C10型)のスポーツモデルである初代2000 GT-R(PGC10)に搭載された高性能エンジンだ。このS20型エンジンは、日産自動車と合併する前のプリンス自動車がプロトタイプレーシングカーR380に搭載するために開発したGR8型をベースに、市販車用に再設計した、量産車として世界初の4 バルブDOHC 機構が採用されたエンジンである。
ボア×ストロークは82 .0×62 .8㎜というショートストロークの1989㏄ユニットは、圧縮比9 .5と高く、3基のツインチョークの三国ソレックスキャブレター40 PHHと組み合わされることで、最高出力160 ps/7000 rpm、最大トルク18 .0 ㎏-m/5600 rpmを発生した。
長いボンネットとコンパクトな居住空間、誰もが直感的に納得するカッコよさというスポーツカーの定型を、国産車として最初に体現したモデルが、初代フェアレディZ。その、1970年代をとおして世界中で販売された、日本が世界に誇るグローバルなスポーツカーのフラッグシップがスカイラインGT-Rと共通の心臓を持つ、このZ432なのである。
フェアレディZ432(1971年式)主要諸元
●全長×全幅×全高:4115㎜×1630㎜×1290㎜●ホイールベース:2305㎜●車両重量:1040㎏●エンジン(S20型):水冷直列6気筒DOHC1989㏄ ●最高出力:160PS/7000rpm ●最大トルク:18.0㎏-m/5600rpm ●最高速度:210㎞/h●0-400m加速:15.8秒●最小回転半径:4.8m●燃料タンク容量:60L ●サスペンション:前後ストラット式●ブレーキ:前ディスク/後ドラム●トランスミッション:5速MT●タイヤサイズ:6.95-14-4PR●乗車定員:2名 ○価格:185万円(マグネシウムホイール付)
Z432に搭載されるパワーユニットは、C10スカイラインGT-Rで実証された2L直6DOHCのS20型エンジンだった
全長4115㎜×全幅1630㎜×全高1290㎜のZ432のボディに搭載されるS20型エンジンは、基本的にはスカイラインGT-Rと同じものだが、ホイールベースがGT-R(2ドア)より265㎜も短いボディに搭載されたことで、よりシャープな走りを実現している。当時の資料によると、最高速度は210㎞ /h、0 -400 mの加速は15 .8秒と記録されている。ちなみに、Z432にはレースへの参加を前提としたコンペティションモデル「Z432 -R」も存在した。
ボンネットやフロントエプロンにはFRP、サイドとリヤウインドウにはアクリル製を採用し、フェンダーやドアは標準より薄い鉄板を使用。さらには内装や装備も簡略化して、シートもFRPのバケットを採用することで、標準モデルより180㎏も軽量化していた。現存台数は10台前後といわれている。
プリンス自動車がプロトタイプレーシングカーR380に搭載するために開発したGR8型をベースに市販化されたS20型2L直6DOHCエンジン。先にスカイラインGT-R(PGC10)に搭載されたが、高性能グレートのフラッグシップモデルである432にも搭載されることになる。
ダットサン・フェアレディにもL型をベースとしたDOHCエンジン搭載計画もあったが、プリンスとの合併で幻に終わる
ちなみに、フェアレディZの先代となるダットサン・フェアレディSP / SRシリーズにも、より高性能なツインカムエンジンを搭載する計画があり、L型6気筒ユニットをベースにDOHC化したエンジンの開発が進められていたが、結局完成することはなく、1966年8月1日にプリンス自動車工業と合併したことで部品の共用化が進められ、次期モデルとなるフェアレディZの高性能グレードには、スカイラインGT-R用のパワーユニットS20型が搭載されることになったといわれている。
1971年10月には輸出専用車であった240 Zシリーズが国内にも登場し、高性能モデルとして人気を二分するが、「昭和48年排出ガス規制」に適合することができず、1973年3月にはZ432、240 Zともに生産を終了している。
スポーツカーにふさわしいコクピット感覚にあふれている彫りの深い造形のダッシュボードまわり。若干運転手側に向けて取り付けられた小メーターは右から水温/油温計、電流/燃料計、油圧計の順。シフトレバーの後ろにあるのはチョークとスロットルのレバー。
黒で統一されたインテリア。ヘッドレスト一体型バケットシートはリクライニングも可能だった。
ボンネットハルフードはフロントウインドウ側から開く前方ヒンジタイプを採用する。
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