
ベントレーが現代の潮流に逆らうような新型モデル「スーパースポーツ」を発表。ベントレーブランド史上もっともドライバー志向の設計を取り入れたスーパースポーツは、あえてハイブリッドシステムを廃した新開発のV型8気筒・666PSのガソリンエンジンを搭載し、後輪駆動化と大幅な軽量化による圧倒的な走りを実現。初代のスーパースポーツから100年、その系譜を再定義する特別な一台が誕生した。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:ベントレーモーターズ
100年の歴史的文脈とパラダイムシフト
ベントレーモーターズが発表した新型「スーパースポーツ」は、単なる高性能グレードの追加ではない。これは、同社のグランドツーリング(GT)の概念におけるドラスティックな転換点であると同時に、ブランドの根幹にある「ドライバーへの没入感」を極限まで追求したモデルだ。
1925年、最初のベントレー「Super Sports」が時速100マイルの壁を超えてから100年。その名を冠する4代目のモデルとして登場した本作は、コンチネンタルGTシリーズ史上初めて(GT3レースカーを除く)後輪駆動(RWD)を採用し、車両重量を2トン未満に抑え込むことに成功した。これは、従来の重厚な四輪駆動システムからの決別であり、物理法則に対するベントレーの新たな挑戦状である。
ベントレーが初代スーパースポーツを生み出してから100年の節目に発表した新型「スーパースポーツ」は、ハイブリッドやEVなど電動モビリティ全盛の現代において異質とも言える純内燃機関を採用してリリースされる。
セレブ御用達の高級車で知られるベントレーだが、その出自はモータースポーツシーンから始まっている。新型スーパースポーツは100年前の原点に回帰するように、レーシーなアピアランスをまとってデビュー。
パワートレイン:純内燃機関への回帰と最適化
昨今の電動化トレンドに対するアンチテーゼとも取れるのが、その心臓部。新型スーパースポーツはハイブリッドシステムを一切排除し、純粋な内燃機関(ICE)のみで構成されている。搭載されるのは、新開発の4.0リットルV8ツインターボエンジンだ。
そのスペックは圧巻である。最高出力666PS(657bhp)、最大トルク800Nm。これはベントレーのエンジン史上最高の出力密度(リッターあたり166.5PS)を誇る。強化されたクランクケース、改良されたシリンダーヘッド、そして大型化されたターボチャージャーによって達成されたこの数値は、ZF製8速デュアルクラッチトランスミッションを介して、全て後輪へと伝達される。0-100km/h加速は3.7秒、最高速度は約310km/h(192mph)に達する。
また、アクラポヴィッチと共同開発されたチタン製エキゾーストシステムは、クロスプレーンV8特有の脈動を、人工的な強調なしに「本物の音」としてドライバーの鼓膜に届ける。これは感性工学の観点からも極めて重要な要素といえる。
ベントレーのブランドエンブレム「ウイングドB」が鎮座するフロントボタン内には新開発の4リッターV8ツインターボが収まる。最高出力666PS/最大トルク800Nmはベントレーのエンジン史上最高の出力密度だ。スターターボタンの下には500台限定を示すシリアルナンバーが付される。
ダイナミクス:後輪駆動化がもたらす物理的恩恵
特筆すべきは、そのシャシー制御技術だ。前述の通り、コンチネンタルGTとして初の後輪駆動化に加え、電子制御式リミテッド・スリップ・デフ(eLSD)とブレーキによるトルクベクタリングが協調制御を行う。これにより、ターンインの鋭さとトラクション性能は飛躍的に向上した。
さらに、後輪操舵システム(リア・ホイール・ステアリング)に加え、新開発のツインチャンバー・ダンパーや、48V電動アクティブロールコントロールシステム「Bentley Dynamic Ride」が、0.3秒で最大1300Nmの反力を発生させ、車体のロールを完璧に制御する。
ブレーキシステムにおいても妥協はない。フロントには世界最大級の440mmカーボン・シリコン・カーバイド(CSiC)ディスクと10ピストンキャリパーを採用。これにより、強大な運動エネルギーを熱エネルギーへと確実に変換し、制動する。
ベントレーお得意の4輪駆動ではなく後輪のみを駆動する漢仕様。最高出力666PSのFR車だけに一般人が制御できるか心配になるが、48V電動アクティブロールコントロールシステムや後輪操舵システムにより安全性も十分担保されている。
フロントホイール内には世界最大級の440mmカーボン・シリコン・カーバイド(CSiC)ディスクと10ピストンキャリパーを組み合わせたブレーキシステムを装備。激しいドライビングでも確実なストッピングパワーを発揮する。
エアロダイナミクスと軽量化:機能美の追求
「形態は機能に従う(Form follows function)」というデザイン哲学は、新型スーパースポーツにおいて極めて顕著である。マンタイ・レーシングと共同開発された22インチ鍛造ホイールの採用に加え、ルーフ、ボンネット、さらには後部座席の排除(2シーター化)に至るまで、徹底的な軽量化が図られた。これにより、コンチネンタルGTスピードと比較して約300kg以上のダウンフォース増強を実現しつつ、車両重量2トン切りを達成している。
フロントスプリッター、ダイブプレーン、固定式リアウイングといった空力デバイスは単なる装飾ではない。これらはシミュレーションと実走テストによって導き出された必然の形状であり、1.3Gという強烈な横Gに耐えうるコーナリング性能を支える。
モータースポーツシーンで活躍するマンタイ・レーシングと共同開発した22インチ鍛造アルミホイールを標準装備。特徴的なフェイスデザインを演出するフロントスプリッターは固定式リアウイングも実用本位による採用だ。
プロジェクト「Mildred」:歴史的逸話へのオマージュ
開発段階において、このプロジェクトは極秘裏に進められた。2024年9月に提案され、わずか6週間でテストミュール(試作車両)が走行を開始したというスピード感も驚異的だが、興味深いのはそのコードネーム「Mildred(ミルドレッド)」である。
これは1920年代に活躍した女性レーサー、Mildred Mary Petreに由来する。彼女は1929年、ベントレー4½リットルを駆り、モンレリー・サーキットにて24時間単独走行を行い、平均時速約90マイルという当時の常識を覆す記録を打ち立てた人物だ。開発チームは、彼女の不屈の精神と限界への挑戦を、この新型車の開発姿勢に重ね合わせたのである。
20世紀初頭にベントレーで活躍した女性レーサー、Mildred Mary Petreから採られた「ミルドレッド」が開発時のコードネーム。伝説的な偉業を築いた先人への敬意が感じられる逸話だ。
インテリアとビスポーク:走りのための空間
室内空間は、ドライバーとパッセンジャーのためだけに再構築された。後部座席があった場所にはカーボンファイバー製のタブが鎮座し、剛性確保と軽量化に寄与している。シートはより低く配置され、身体を強固にホールドする。
インテリア素材にはレザー、ダイナミカ(Dinamica)、そしてカーボンファイバーが多用され、ラグジュアリーでありながらもスパルタンな雰囲気を醸成している。無論、マリナー部門によるビスポーク(特注)も可能であり、限定500台の各車両は、オーナーの美意識を反映した唯一無二の個体となるだろう。
ウエストレールとファシアパネルには軽量かつ高光沢のカーボンファイバー・ベニアが標準装備され、レザーとダイナミカを組み合わせた仕上げ。モノトーン、デュオトーン、トライトーンの内装を選択可能。
新設計のスポーツシートが高いサポート性を発揮。後席空間はカーボンファイバーとレザーのシェルに置き換えられている。内装はカーボンファイバーに代えて、ダークティント仕上げのダイヤモンドブラッシュド・アルミニウム、またはエンジンターンドアルミニウム、ピアノブラックも選択できる。
生産台数は500台のみ。2026年3月からオーダー受付
新型スーパースポーツは、2026年3月にオーダー受付を開始し、同第4四半期に生産が開始される予定。価格や詳細なスペックは追って発表されるが、EU27諸国、英国、米国、中東、オセアニア等の特定市場でのみ入手可能となる。
ベントレーは「Beyond100+」戦略において電動化への移行を掲げているが、この新型スーパースポーツは、内燃機関時代の最後を飾るにふさわしい、純粋で、そして狂気すら感じるエンジニアリングの結晶と評価できる。自動車史におけるひとつの到達点として、我々の記憶に刻まれることは間違いない。
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