
現在に至る軽スーパーハイトワゴンやミニバンの源流は、半世紀以上前にすでに登場していた。1972年に誕生したホンダ「ライフステップバン」である。FF駆動の利点を最大限に活かした低床かつ広大な室内空間は、当時の乗用車や商用車の概念を覆す画期的なパッケージングだったのだ。しかし、時代を先取りしすぎたゆえに生産期間はわずか2年弱という短い生涯を終えることになる。
●文:月刊自家用車編集部
「乗用車のライフのメカニズムをそのまま床下に低く収める」という基本レイアウトが、イメージスケッチとして初期の段階から明確に描かれていた。
商用車としては珍しい、ボンネットが前に突き出たセミキャブオーバースタイルを採用
N360の後継車種として、1971年に登場した「ライフ」は軽乗用車市場で高い人気を得たモデルだった。翌年1972年、そのライフのプラットフォームをベースに、ホンダが軽商用車市場へ参入するために開発されたのが「ステップバン」だ。エンジンをフロントに置き、前輪を駆動するFF方式を採用することで、後輪に動力を伝えるためのドライブシャフトを必要としないため、床面をギリギリまで低く、かつ平らにすることが可能となり、クラスを超えた広大な室内空間を実現した。
また、当時の軽商用車は、軽トラックの派生車種やキャブオーバー型のワンボックスカーが主流だったが、商用車としては珍しい、ボンネットが前に突き出たセミキャブオーバースタイルを採用したことで、衝突時の安全性や快適性も飛躍的に向上したのだ。「荷物を運ぶだけでなく、もっと楽しく、使いやすく、デザイン性の高い軽商用車」というコンセプトを掲げ、従来の軽バンの常識を覆す全く新しいクルマを目指し開発された所以である。
軽規格を最大限に活用するため、徹底的に「四角い箱」を追求したデザイン。これまでになかった新しい発想のエクステリアは、現在の軽トールワゴンに継承されている。
ステップバン主要データ(1972年式) ●全長×全幅×全高:2995㎜×1295㎜×1620㎜●ホイールベース:2080㎜●車両重量:605㎏●エンジン(EA型):水冷直列2気筒SOHC 356㏄●最高出力:30PS/8000rpm ●最大トルク:2.9㎏-m/6000rpm●トランスミッション:4速MT●乗車定員: 4名●サスペンション:前マクファーソン式コイルバネ/リジットアクスル半楕円バネ●タイヤサイズ:5.00-10-4PR ULT
ライフと共通のEA型水冷直2SOHCを搭載。最高出力30ps、最大トルク3.0kg-mを発生した。
エンジンをフロントに置き、前輪を駆動するFF方式を採用することで、ドライブシャフトを必要としないため、床面をギリギリまで低く、かつ平らにすることが可能となった。
大人4人がゆったりと座れる室内と、荷物を積めるスペースを両立
ステップバンの最大の特徴は、徹底的に空間効率を追求したデザイン。全長3m、全幅1.3mという当時の軽自動車規格の制約の中で、最大限の室内空間を確保するために、徹底的に「四角い箱」を追求した。ボンネットがないため、全長に対する荷室スペースが非常に広く、大人4人がゆったりと座れる室内と、荷物を積めるスペースを両立しているのも当時の商用車としても画期的であった。特に後部座席は、シートバックを倒すことでフラットな荷台になり、様々な用途に対応できるのも大きな魅力だった。
また、ボディの四隅まで見切りが良く、運転しやすいという利点もあった。当時の軽自動車としては珍しく、スライドドアではなくヒンジ式の大きなドアを採用したことも、乗り降りのしやすさに貢献していた。
商用バンとしては珍しくリヤドアもスライド式ではなくヒンジ式の大きなドアを採用。こういう部分も商用車というより乗用車的な設計だった。またリヤゲートは、上下分割式となり、ここにも開発者のこだわりが採用されていた。
まるで自分の部屋がそのまま移動しているかのような、愛らしくも機能的な空間が演出した。
ダッシュボードは運転席から助手席にかけて奥行きのある平らなボードを採用。簡単なテーブルとしても使用することができた。助手席側には小物入れも設定。
ボンネット内にエンジンを収めるFF方式だったため、床を限界まで低くすることができ、この低い床に対してシートをアップライトに配置したことで、足元のスペースを広く確保することができた。
後席を折りたたむと、床面にすっぽりと収まり、傾斜や段差のない「完全にフラットな荷室」となる。当時の軽自動車規格でありながら、後席格納時の荷室長は1,270mm、荷室高は1,135mmに達し、後輪のホイールハウスも小径10インチタイヤのおかげで最小限に抑えられていた。
さまざまな用途に対応できる画期的な機構を採用し、商用車以上の使い勝手を追求した
ライフのFFプラットフォームを活かし、荷室の床を低く設定することによって、重い荷物の積み下ろしが容易になり、また、荷室全体をフラットにすることで、大きな荷物も効率よく積載できるようになった。さらにリアゲートは、上半分が跳ね上がり、下半分が下に開く上下分割式を採用。上半分だけ開けて荷物を出し入れしたり、下半分をテーブルとして使ったりと、さまざまな用途に対応できる画期的な機構を採用するなど、商用車以上の使い勝手を追求したモデルとなっている。
そのユニークなコンセプトとデザインが評価され、商業的な成功を収めたものの、1974年の排ガス規制強化と、ホンダの経営資金集中による軽自動車市場の一時的な撤退により、わずか2年あまりで生産が終了した。しかし、生産終了後も、その愛らしいデザインと実用性、そして希少性が加わり、現在でも根強い人気を誇っている。
また、ステップバンをベースにした派生車種として、荷台を搭載した「ライフピックアップ」もライナップされたが、こちらはさらに生産台数が少なく、非常に希少なモデルである。
ライフピックアップ(1973年)
1973年に登場した、ステップバンのキャビンを流用し、その後ろを荷台とすることで、軽トラックとしての機能を持ちながら、乗用車のような快適性やデザイン性を両立させようとしたモデル。
当時の市場では、より積載性や実用性を重視したキャブオーバー型の軽トラックが主流だったため、商業的には成功しなかった。そのため、総生産台数はわずか1429台と非常に少ない。
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