
1980年代後半から1990年代初頭のバブル景気は、日本車史に残る数々の名車を生み出した。その熱気は軽自動車にも及び、「ABCトリオ」と呼ばれる3台の軽スポーツが誕生する。その中でも、唯一ガルウイングドアとミッドシップレイアウトを採用した異端児がオートザム・AZ-1である。今なお唯一無二の存在として語り継がれる、その魅力を改めて振り返る。
●文:月刊自家用車編集部
バブル期が生んだ”ABCトリオ”。その中で最も異彩を放った存在
オートザム・AZ-1が発売されたのは1992年10月。日本がバブル景気の余韻を残していた時代であり、自動車メーカー各社は利益を惜しみなく新技術や個性的なモデルの開発へ投入していた。
軽自動車の世界でも、その熱気を象徴する存在として誕生したのが、後に「ABCトリオ」と呼ばれる3台の軽スポーツである。”A”はオートザム・AZ-1、”B”はホンダ・ビート、”C”はスズキ・カプチーノ。それぞれが異なるコンセプトを掲げ、軽スポーツというジャンルを大いに盛り上げた。
ビートはオープンボディと自然吸気エンジンによる爽快感、カプチーノはFRレイアウトによる本格的なスポーツ性能を追求した。一方、AZ-1はリヤミッドシップレイアウトにガルウイングドアを組み合わせ、まるでスーパーカーをそのまま軽自動車へ凝縮したかのようなコンセプトを採用。3車の中でも思想そのものが異なる、最も個性的な存在だった。
オートザム AZ-1(マツダ)
平成の「ABCトリオ」の中でもひときわ異端な存在感を持つクルマだった、オートザム AZ-1(マツダ)。
軽自動車でありながら、ガルウイングドアを採用するなど、国産車全体を見ても異彩を放つデザイン。ドアの重さをカバーするため、ボディパネルはFRP樹脂が用いられるなど、随所に苦心の設計思想が用いられている。
ガルウイング、MR、樹脂ボディ──軽自動車の常識を覆したメカニズム
AZ-1最大の特徴は、その成り立ちそのものにある。
国産軽自動車として唯一となるガルウイングドアを採用し、エンジンは運転席後方へ搭載するリヤミッドシップレイアウト(MR)。さらに樹脂製外板をボルトで固定するスケルトンモノコック構造を採用するなど、その内容は当時の軽自動車としては驚異的だった。
搭載されるエンジンは、スズキからOEM供給を受けたF6A型657cc直列3気筒DOHCインタークーラーターボ。最高出力は当時の自主規制いっぱいとなる64PSを発生し、5速MTとの組み合わせで軽快な加速性能を実現していた。
F6A型直列3気筒DOHCターボエンジンをリヤミッドシップに搭載する、独特なレイアウトを採用。自主規制上限の64psを発生する。
また、このパワーユニットはFF用ユニットを縦方向に搭載することでMR化しており、専用設計と既存部品を巧みに組み合わせることで、高度なパッケージングを実現している。
さらに、1993年にはスズキからOEM版となる「キャラ」も発売されたが、生産台数は少なく、AZ-1の希少性は現在でも際立っている。
新車価格は149万8000円。当時としては軽自動車として高価だったが、この内容を考えれば破格と言ってよい価格設定だった。
スズキ「CARA(キャラ)」
1993年にマツダ・AZ-1のOEMモデルとして、スズキから「CARA(キャラ)」が販売されている。AZ-1との主な違いは、スズキのエンブレムと、フロントバンパーに組み込まれたフォグランプなど。総生産台数は500台強と、AZ-1以上に希少なモデルになっている。
スズキ「CARA(キャラ)」。オートザム AZ-1のOEMモデルで希少な1台となっている。
オートザム AZ-1 マツダスピードバージョン
1994年には専用エアロパーツなどを装着したマツダスピードバージョンも登場。レーシーな雰囲気を楽しめる仕様に仕立てられいる。
1994年に発売された、専用エアロパーツなどを装備したAZ-1のマツダスピードバージョン。
コストを抑えながらも妥協しなかった開発思想
ここまで特別なクルマを150万円以下で実現できた理由は、徹底したコストマネジメントにある。
AZ-1にはドアミラーやスイッチ類、ランプ類など、他車種から流用された部品が数多く採用されている。限られた開発予算の中で、本当にお金を掛けるべき部分を見極めた結果であり、ユーザーの目に触れにくい部分では既存部品を積極的に活用した。
ボディ中央のミッドシップエンジンを収めるためのルーバーや、独特の丸型テールランプなどがもたらすスペシャル感も魅力。平成の「ABCトリオ」の中でもひときわ異端な存在感を持つ。
その一方で、シャシーやボディ構造、ガルウイングドアなど、このクルマの個性を決定づける部分には一切妥協していない。
まさに”メリハリのある開発”こそがAZ-1最大の魅力と言えるだろう。
オートザム AZ-1(マツダ)
“未体験ハンドリングマシン”は本当にじゃじゃ馬だったのか
AZ-1の開発は、英国のIAD(旧H&W)が基本コンセプトを提案し、それをマツダ本社の特装設計課がブラッシュアップする形で進められた。
その過程では1989年の東京モーターショーへ「AZ-550スポーツ」を出展。タイプAをベースに改良が重ねられ、最終的に量産化されたのがAZ-1である。
量産は、マツダ車のプレス部品を製造していたクラタ(現キーレックス)が担当した。
実際の走りについては、マツダ自身が「未体験ハンドリングマシン」と表現していたように、極めて個性的である。
フロントフードを開けると、奥にはブレーキフルードのタンクなどが見え、手前には固定式の丸型ヘッドライトが配置されている。
MRレイアウト特有の高い旋回性能を備える反面、重量配分の関係からフロントの接地感が希薄になりやすく、リヤサスペンションの特性も相まって、限界域では挙動変化が大きい。そのため、当時は「じゃじゃ馬」と評されることも少なくなかった。
しかし、現在では評価も変わりつつある。荷重移動を意識した正しいドライビングを身につければ、小さな車体とは思えない鋭いコーナリング性能を味わえることから、「乗り手を育てる本格派スポーツカー」として高く評価するオーナーも多い。
ガルウィングドアの開口部から見えるタイトな2シーター空間。赤いアクセントが入ったバケットシートと、黒を基調としたシンプルな内装が、スポーツカーらしい雰囲気を醸し出している。
マツダの名デザイナーへ捧げたオマージュ
AZ-1のスタイリングには、マツダの名デザイナー・小杉二郎氏が1965年に発表したコンセプトカー「MK600」へのオマージュが込められている。
小杉氏は、日本に工業デザインという概念を根付かせた人物の一人であり、R360クーペや初代キャロル、コスモスポーツなど数々の名車を世に送り出した。
MK600は航空機を思わせる流線形ボディ、ツートンカラー、リヤエンジンレイアウトなど、未来を感じさせるデザインを採用していた。
AZ-1では、その思想を現代風に再構築。ツートンカラーやコンパクトなプロポーション、リヤ駆動レイアウトなどのエッセンスを受け継ぎながら、ガルウイングドアや固定式ヘッドライトによって1990年代らしいスーパーカーの雰囲気へ昇華させている。
単なるレトロデザインではなく、マツダの歴史を現代へ受け継ぐ意味を持った一台でもあったのである。
主要諸元
【オートザム AZ-1 主要諸元】
- 形 式:E-PG6SA
- 全長×全幅×全高:3295×1395×1150mm
- ホイールベース:2235mm
- 車両重量:720kg
- 乗車定員:2名
- エンジン:F6A型 657cc 直列3気筒DOHCインタークーラーターボ
- 最高出力:64PS/6500rpm
- 最大トルク:85N・m(8.7kgf・m)/4000rpm
- トランスミッション:5速MT
- 駆動方式:MR(ミッドシップエンジン・リア駆動)
- ブレーキ:前後ディスク
- 10・15モード燃費:18.4km/L
中古車価格は300万円台から。価値は今なお上昇を続ける
AZ-1は生産終了から30年以上が経過した現在でも、高い人気を維持している。
生産台数は約4,400台と少なく、さらに現存するコンディションの良い個体は年々減少していることから、中古車価格は右肩上がりを続けている。
2026年現在の中古車市場では、実用レベルの個体でも300万円前後からが中心価格帯となり、低走行車やフルノーマル車、レストア済み車では400~500万円を超える例も珍しくない。限定車「M2 1015」や希少カラーなどは、さらに高額で取引されるケースも見られる。
発売当時の新車価格149万8000円を考えれば、その資産価値は驚異的と言えるだろう。
軽自動車という枠を超え、スーパーカーのエッセンスを凝縮したAZ-1は、今後も国産スポーツカー史に残る名車として高い評価を受け続けるはずだ。
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