
かつて、空前のツーリングワゴンブームが到来。国内外のメーカーがこぞって市場に投入した。その火付け役となったのが、今回紹介するスバルの初代レガシィ。実はこのモデル、窮地にあえぐ当時のスバルの救世主的な存在でした。その詳細を見ていきましょう。
●文:月刊自家用車編集部(往機人)
36年の歴史に幕。ツーリグワゴンブームの火付け役「レガシィ」
2025年の3月に「アウトバック」の受注終了をもって、「スバル・レガシィ」シリーズは国内での販売を終了しました。2014年にツーリングワゴンが「レヴォーグ」に引き継がれ、2020年にはセダンの「B4」が終了。今年の「アウトバック」の販売終了で、1989年に初代が誕生して以来、実に36年にわたる「レガシィ」の歴史が幕を閉じました。
「レガシィ」が国内での“役目を終えた”のは、中型クラスのセダン&ワゴンの需要が減少したことと見られていますが、ツーリングワゴンのブームの火付け役と言っていい「レガシィ」がもう無くなってしまうとなると寂しい気持ちになります。ここではその「レガシィ」の功績を振り返る意味も込めて、初代「レガシィ」にスポットを当てて、その開発経緯などを掘り起こしてみましょう。
アイデンティティの水平対向エンジン、その祖は「スバル1000」にまで遡る
今では完全にスバル車のアイデンティティになっている水平対向エンジンですが、歴史を辿ってみると、あるときに“戦力外通告”される寸前に陥っていたそうです。初代レガシィの誕生のストーリーには、この水平対向エンジンにまつわる話が不可避なので、ちょっと歴史を遡ってみましょう。
時は1960年代前半。軽自動車の「スバル360」のヒットで成功を収めたスバルは、初めての小型乗用車の計画を進めていました。お手本としたのは当時の欧州車で、コンパクトな車体という制約の中で、室内空間を最大にとるため、メカニズムはできるだけコンパクトにする、という考えをベースに据えてスタートしたそうです。その考えにもっとも合致するのはFFレイアウトです。
そして当時の製造技術を考慮しつつ、運動性能の良さを求めると、エンジンは水平対向がベストという結論に至りました。こうして試行錯誤を経て完成したのが、フロントに水平対向4気筒1000ccエンジンを搭載する「スバル1000」です。
スバル1000は、国産黎明期に世に送り出された量産型のFF乗用車。当時のFF車の課題を克服するため、水平対向エンジンを縦置きに配置する独自の方式を採用することで、理想的な左右対称駆動を実現している。
この時点で、ドライブシャフトの振動を最少にするため、デファレンシャルギヤボックスを中央に据える“シンメトリカル・レイアウト”を採用していました。
この「スバル1000」は販売成績は振るいませんでしたが、スバルの確かな理念を世に訴求することには成功しました。そしてその「スバル1000」の後継車として「レオーネ」が開発されます。
レオーネの限界に強い危機感を抱く開発陣。レガシィはその思いから誕生した
「レオーネ」は北米市場をターゲットにしていたため、「スバル1000」の理念はいちど除けて、アメリカナイズを意識して進められたそうです。エンジンも刷新の話がありましたが、経済状況から続投が決定されます。
初代レオーネは、水平対向エンジンと独自の4WDシステムを組み合わせた画期的なモデル。スバル4WDモデルの礎となったことで有名な一台。
「レオーネ」はラリーなどのイメージが強くAWDのパイオニア的に見られる傾向もありますが、実はAWD推しの販売戦略は上手くいっていなかったようです。おまけに、市場のニーズに応じて排気量が上げられた水平対向エンジンは、構造的に限界が見えていました。
それらの状況に強い危機を感じた開発陣は、急遽「レオーネ」に代わる新時代のミドルクラスの乗用車の開発に踏み切ります。それが初代「レガシィ」なのですが、ネガティブな要因の多い「レオーネ」のイメージから脱却すべく、思い切って「気持ちのいい走りを追求する」という方向にテーマを定めました。
他社のFF勢の進化に追われて時代に取り残されかけていた水平対向エンジンですが、いざ走りを優先事項にすると、メリットが際立ち、再び輝きを放ち始めました。
初代レガシィは1989年に発売開始。パワートレーン&プラットフォームは完全新設計されるなど、前身のレオーネから大きく進化している。
もともとエンジン剛性が高く振動が少ないこと、そしてサスペンションメンバーの配置に自由度が増えるため、剛性と乗り心地を無理なく両立できます。そしてAWDの駆動系の設計でも優位な点が多く、手応えを感じたプロジェクトチームによって開発の勢いは増していきました。
その一方で会社のフトコロ事情は逼迫しており、このプロジェクトがコケたらつぶれかねないという緊張感が漂う“背水の陣”のような状況でした。しかし逆にそれがカンフル剤となり、これまで培ってきた技術や理念の蓄積が開花し、その結果かつて無いほどのポテンシャルを秘めた車輌ができあがっていきました。
最高水準の性能と上質感の相乗効果で、大ヒットを記録
搭載されるエンジンも「レオーネ」までの「EA型」からすべてを刷新した「EJ型」に切り替わりました。基本構成はほぼ同じですが、クランクシャフト周りが高出力対応の設計となっているのが特色です。その効能で、2.0Lターボ仕様の「EJ20ターボ」は当時クラス最高出力の220psを発揮しています。
EJ20ターボエンジンは、1989年に初代レガシィに初めて搭載され、その後2019年に生産終了するまで、約30年間にわたってスバルの主力エンジンとして活躍している。
また、北米や欧州の需要に訴求するツーリングワゴンを車種構成の柱に据えることで日本の新たな需要を掘り起こし、そこにAWDという伝統の武器によるタフさというイメージが加わって、ブームが起こるきっかけとなりました。
開発段階で車輌を煮詰めるテストにも力を入れており、公道を中心に市街地や山道はもちろんのこと、雪深い地域やアメリカなどの広大な土地、そして超高速レンジのアウトバーンなどに赴いて納得のいくまでに詰め、作業をおこなったそうです。
初代レガシィは、スバル伝統の水平対向エンジンと、それに続くトランスミッション、プロペラシャフト、リヤデファレンシャルが一直線に配置されるシンメトリカルAWDレイアウトを採用したことで、オンロードで抜群の性能を獲得。この走りの良さを武器に高い人気を集めている。
その高い性能と耐久性を広く訴求するため、アメリカのアリゾナ州フェニックスの特設コースにターボ仕様のレガシィセダンRSを持ち込み、10万km耐久走行を実施。走行平均速度223.345km/hという国際記録を達成して見せた映像は、当時かなりのインパクトを持って自動車業界をザワつかせました。
デビュー前にアリゾナ州フェニックスの特設コースで10万km耐久走行を実施。平均速度223.345km/hというFIA公認の連続走行世界速度記録を樹立するなど、その優れた性能を世界にアピールしている。
車輌のイメージを左右するデザインも新たな試みが込められています。室内空間を広げるために抑揚が減っていた風潮に反して、フェンダー周りを少し外に膨らませる“ブリスターフェンダー”を採用することで、4輪で踏ん張るAWDの印象を強調しながらスポーティさを加えています。
ウインドウ周りでは、ぐるりと1周ボディ色の部分をできるだけ排して航空機のキャノピーのような印象に仕上げている点も特徴のひとつでしょう。
当時のトレンドに合わせた直線的なフォルムながら、優れた空力性能を追求したスタイリッシュなデザインを採用。ウインドウ周りは、ブラックアウトされることで、航空機のキャノピー(操縦席の覆い)のようなグラスエリアが楽しめる。
さてこの初代「レガシィ」ですが、中古車市場を見てみると、タマ数がかなり少なくなっているようです。
そして価格面でも、昨今の旧車需要の高まりの影響か、年式を考えると少々お高めの200万円台の車輌が多く見られます。この記事で気になったという人は、チェックしてみてください。
日本に本格的なステーションワゴンの市場を確立したなどの理由で、「2024 日本自動車殿堂 歴史遺産車」に選定された初代レガシィ。スバルの歴史を語る際に外せないモデルとなっている。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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