
BMWの次世代EV戦略「ノイエ・クラッセ」の皮切りとして登場した新型「iX3」。一見するとX3の電動版と錯覚するが、プラットフォームから新設計された完全なるBEV専用モデルだ。圧倒的な航続距離と最先端のツインモーター4WDを備えつつ、走り味は驚くほどエレガント。1000万円オーバーのプレミアムBEVが見せた“意外な仕上がり”を徹底インプレッションした。
●文:川島 茂夫 ●写真:澤田 和久
「X3のBEV版」ではない。ノイエ・クラッセ第1弾として生まれた新世代モデル
力強い2ボックス・シルエットとSAVらしい堂々としたプロポーションを採用。アップライトなフロントには、縦型キドニー・グリルと垂直配置のLEDヘッドライトを組み合わせ、1960年代のノイエ・クラッセを現代的に再解釈している。
英訳では「ニュークラス」を意味するノイエ・クラッセ戦略の第1弾として登場したのがiX3である。電動化時代の新たなステージを目指したモデルと理解すればいいだろう。
車名や車体寸法からすると、X3のBEVバリエーションとも誤解されそうだが、ボディパネルやパワートレーンはもちろん、プラットフォームや骨格などハードウェアの大半は新規に起こされている。
ボディ側面はモノリシックな面構成と最小限のキャラクター・ラインによって、シンプルながらスポーティな印象を演出。リアにはBMW伝統のL字型ライトを水平基調で再解釈したテールライトを採用し、ワイドで力強いスタンスを際立たせている。ボックス型のSUVシルエットだがCd値は0.24を達成し、航続距離の延長に寄与している。
バッテリー積載のためのスペース効率向上や、バッテリーパックを構造材として用いた骨格設計など、BEVの特徴を活かして高効率を求めれば、BEV専用設計となるのも当然だ。
駆動方式は、前後独立した駆動系を構成するツインモーター式4WDを採用する。とくに珍しい駆動形式ではないが、使われているモーター形式が興味深い。前に誘導型、後ろに同期型を配している。
BEVやストロングHVでは同期型を用いるのが一般的だが、iX3では後輪を主駆動輪として、前輪を急加速時や滑りやすい路面での補助的な役割とした。誘導モーターの採用は、非駆動(空転)時のコギングなどによるモーターの抵抗を最小限に抑え、電費を改善するのが狙いである。
また、後輪駆動用の同期型モーターは永久磁石を用いず、ローター側の磁石も電磁石としているのが特徴だ。強力な永久磁石に必要となるレアアースへの依存度を下げるのは、本格的なBEV時代に向かってコストと性能の安定を重視した結果と考えていい。
BMWグループの電気自動車として初めて、前輪に誘導モーター、後輪に巻き線界磁式同期モーターを採用。通常走行時は前輪駆動を停止し、必要な時だけ駆動することで効率を高める。後輪用モーターはレアアースを使用せず、界磁電流によって磁力を可変制御することで、高効率と正確な出力制御、航続距離の延長を実現している。
パワースペックは前輪駆動系が123kW/255N・m、後輪駆動系が240kW/435N・m、システム総合が345kW/645N・mとなっている。「50」の車名のとおり、最高出力はNAガソリンエンジンの5L級に相当する。
試乗車は「iX3 50 Mスポーツ」。21インチアルミホイールなど、Mスポーツ専用の内外装によるグレードアップが施されているが、機能装備は50とほぼ同じだ。
航続距離は50が906km、50 Mスポーツでも835km。長距離移動への不安はかなり小さい
新型BMW iX3には、Gen6(ジェンシックス)と呼ばれる第6世代の「BMW eDrive」を採用。新設計の高電圧バッテリー、800Vアーキテクチャ、進化した電動駆動ユニットを組み合わせ、電動化技術を大幅に進化させている。
iX3のセールスポイントのひとつに、906kmという満充電時の航続距離(WLTCモード)がある。
さらに最大320kWの受電能力により、十分な出力を持つ急速充電器なら、15分の充電で420km相当の走行距離を確保できるとしている。
ただし、この906kmという数値は50のもので、インチアップしたホイールを履く50 Mスポーツでは835kmとなる。約8%短くなるが、それでも800kmを超える航続距離なら、ツーリング途中の充電計画も立てやすい。航続距離への不安が最も少ないBEVの一台と言えるだろう。
約470PSの高性能を前面に出さない。むしろ「紳士的」な走りがiX3の持ち味
新設計の高電圧バッテリーを採用。円筒形セルを直接パックに組み込む「セル・トゥ・パック」設計を採用。効率や冷却性能を高めながら軽量化を図り、109.1kWhの大容量を確保する。BMW iX3 50 xDriveでは、WLTCモードで一充電走行距離906kmを実現している。
走りについては、Mスポーツというキャラクターや、馬力換算で約470PSという最高出力から、スポーツ派のカーマニアが好む激しさを予想してしまう。
疑似エンジン音を車内に響かせることもでき、スポーツモードなど走行モードの選択も可能。もちろん、回生ブレーキを強めたワンペダルドライブにも対応する。
さまざまな機能を満載しているが、走らせた印象は最近登場したBMW車の中でも紳士的だ。どちらかと言えば、切れ味や瞬発力の類いは表に出ないよう上手にいなし、操作感や乗り味にエレガントな味わいを持たせている。
もちろん、アクセルを全開にすればシステム最高出力が示すとおりの加速を見せる。2.3tを超える車重をものともせず、一気呵成に速度を高めていく。
新しいデザイン言語を反映したインテリアは、水平基調のコックピットと広いウインドウエリアにより、モダンで開放的な空間を演出。新世代の操作系「BMWパノラミックiDrive」を採用し、必要な情報を最適な位置に表示することで高いドライバー・フォーカスを実現する。照明やサウンド、表示を連動させる「My Modes」など、デジタル体験も大きく進化している。ウインドウ下部には表示をカスタマイズ可能な左右に広がる43.3インチBMWパノラミックビジョン、インパネセンターには17.9インチフリーカットデザインコントロールディスプレイを設置している。
最大加速時の刺激や高揚感はあるものの、必要以上に速さを感じさせない。速度感、あるいは加速度感とでも言うべき感覚が心地よく、意のままに操れるコントロール感や、クルマとの対話感にもつながっている。
フットワークにしても、車重や装着タイヤからすれば相当に引き締められていると予想していたのだが、荒っぽい突き上げは少ない。軽負荷でも突っ張った感じはない。
車重に振り回されることがないよう、それなりの硬さはあるが、サスペンションのストローク感は滑らかで、動き出しと収束性のよさが際立っている。
加減速や操舵によって各輪に掛かる荷重がサスペンションストロークやGの動きに現れ、それらをコントロールしている感覚が心地よい。車両との対話感に根ざしたファン・トゥ・ドライブを生み出している。当然、同乗者への負担も少ないタイプだ。挙動やハンドリングの特性からは、FRと4WDのいいとこ取り的な運転感覚とも言える。
1034万円のiX3が目指したのは「BEVが当たり前になる時代」のプレミアムSUV
新型BMW iX3には、一定の条件下でステアリングから手を離して走行できる「ハイウェイ・アシスト」を標準装備。さらに「レーン・チェンジ・アシスト」では、システムからの提案に対し、ドライバーがドアミラーを見る自然な動作を合図として車線変更を行う。いずれもレベル2の運転支援機能で、前方注視が必要となる。130㎞/hまでのハンズフリー走行については、2026年11月以降に車両のソフトウェアのアップデートなどで提供される予定だ。
iX3 50 Mスポーツの価格は1034万円。X3 M50より11万円高となる。補助金もあるので額面どおりの比較とはいかないが、高性能を駆使する高揚感を求めるなら、X3 M50のほうが投資効果は高いだろう。
800Vアーキテクチャを採用し、BMWグループの電気自動車として初めて最大320kWの急速充電に対応。10%から80%まで約26分で充電でき、15分の充電で最大約395km走行相当の電力量を補充可能。今後、東名高速道路海老名サービスエリアなどに設置が予定されている設置予定の最大350kW急速充電器では、15分で最大約420km走行相当まで充電できるという。
ラゲッジ容量は通常で520L、シート格納時には最大で1750Lまで拡大できる。後席のバックレスト格納は4:2:4の分割式。床下にもトランクがあり充電ケーブルなどを収納できる。フロントボンネットにも容量58Lのトランクが用意され、タイヤリペアキットが格納されている。
一方、iX3は「BEVが当たり前になる時代」のプレミアムSUVを目指したモデルと思えた。
ことさらにBEVらしさや高性能を誇示するのではなく、「普通」であることの質を高めていく。良質さを追求したその仕上がりは、これまでのプレミアムカーとは一味違っていた。
■試乗車の主要諸元(BMW iX3 50 xDrive M Sport)
・全長:4780mm×全幅:1895mm×全高:1635mm
・ホイールベース:2895mm
・トレッド前/後:1625mm/1630mm
・最低地上高:176mm
・車両重量:2330kg
・駆動方式:4WD(xDriveシステム)
・電気モーター種類前/後:交流誘導電動機/交流同期電動機
・フロントモーター最高出力:123kW(167PS)
・フロントモーター最大トルク:255Nm
・リアモーター最高出力:240kW(326PS)
・リアモーター最大トルク:435Nm
・システムトータル最高出力:345kW(469PS)
・システムトータル最大トルク:645Nm
・リチウムイオンバッテリー容量:109.1kWh
・0−100㎞/h:4.9秒
・最高速度:210㎞/h
・一充電での走行距離(WLTCモード):835km
・タイヤサイズ:255/40R21
・車両本体価格:1034万円
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