
1月下旬に北海道で開催された三菱の雪上試乗会で、参加した多くのテスターを唸らせたのが、トライトンの走りのレベルの高さ。今回はトライトンで全日本ラリー選手権にも参戦している竹岡圭氏が、ガチ勢ならではの視点でその魅力を解説。
●文:竹岡圭(月刊自家用車編集部) ●写真:奥隅圭之/三菱自動車
世界販売台数の2割を稼ぐ、三菱自動車の戦略モデルに成長
SUVがブームといわれ始めてもはや10年以上が経つでしょうか。小さいのから大きいのまでといったボディサイズはもちろん、これまでSUVなんて考えられなかったプレミアムブランドからも続々とリリースされ、さらに最近はクロスカントリー車といった、よりヘビーデューティーな方向へも種類が増え…と、百花繚乱時代が続いています。
そんな中の2024年、新たに登場したのが三菱のピックアップトラック「トライトン」です。
オフローダーテイストを上手に織り込んだスポーツトラック「トライトン」。実用的な前後シートを備えるダブルキャブボディを採用したのは、レジャーユースを狙っていきたいというメーカーの意向も大きい。
日本には先々代モデルが限定数のみ導入されたことがありましたが、あまり馴染みがないかと思います。ところが、世界ではとても需要が高いモデルで、これまでに約150か国で560万台以上を販売。三菱自動車の中でも、世界販売台数の約2割を占めるなど、三菱の屋台骨を支えている最重要車種のひとつなんですよね。9年ぶりのフルモデルチェンジとなる3代目は、ブーム世情を反映してか、タイで生産したものを日本に持ってくるカタチで導入されることとなりました。
そして、今回のフルモデルチェンジは、ガラリとすべてが変わったフル中のフルモデルチェンジ。フレーム/ボディ/足まわり/エンジン/4WDシステム等々、すべてを一度に刷新することはなかなかないことなのですが、オールニューとなっているんです。
後席がしっかり使えるダブルキャブ仕様の導入は大正解
新開発のラダーフレームは、ハイテン材の採用比率を増やし、また断面積を工夫する等で重量増は最小限に抑えつつ、剛性を格段に向上させるという手法が取られ、そこに載せられるボディはさまざまのタイプがあるのですが、日本には2列シート×4枚ドアのダブルキャブ仕様がやってくることになりました。
キャビン幅は+50mm、ホイールベースは+130mmと、先代よりもひと回り大きくなり、デザイン的にもAピラーを立てることで乗降性の良さと視界を確保。荷台高は荷物の載せ降ろしを考慮して45mm下げつつ、後ろ側のステップも足をかけやすくするなど、細かいところにも配慮が行き届いています。
サスペンションについては、フロントはコイルスプリングですが、リヤはリーフスプリング。なんてったってトラックですからね。そのリーフスプリングの枚数を減らすなど、軽量化を図りながらもストロークを20mm増やすことで、走行性能と乗り心地をグッと進化させています。
パワートレーンは、新開発の直列4気筒2.4Lディーゼルターボエンジンに、6速スポーツモードATの組み合わせ。もちろんピックアップトラックですから働くクルマではあるのですが「ワクワクするような冒険に誘い、どんな冒険からも必ず家族とともに無事に帰ってこられて、環境にもしっかり配慮しているクルマ」という、SUV的なクロスカントリー車としての一面を総合的に持たせられてデビューしたのです。デザイン的にも文句ナシでカッコイイんですよね!
そんなワケで、じつはワタクシ2024年から、トライトンをベースにしたラリー車を制作しまして、『XCRスプリントカップ北海道』というラリーに参戦しております。そのうち2戦は、全日本ラリー選手権の1カテゴリーとして開催されていると聞くと、走破性の高さがちょっと垣間見えるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
ヒップポイントが20mm高くなったおかげで、身長158cmの私でも視界はキッチリ確保できますし、最小回転半径6.2mと、見た目のわりには小回りも利くので、日本の狭い林道の中も駆け抜けることができてしまうんですよね。
キャビンまわりの細部の造形や加飾はシンプルだが、トリムや使用頻度の高いスイッチ類はミドルクラス相応な仕上がり。装備レベルも同価格帯のSUV勢と戦えるレベルだ。
大きな躯体に似合わず、手足のように操れる
本気で踏めば204ps/470Nmのパワフルさで、なかなかに速いクルマでもあるのですが、今回は雪上試乗ということで、速さというよりも走破力の高さが注目ポイントになります。ダカールラリーのような超冒険ラリー/WRCのような超ハイスピードラリー、両方のノウハウを持っている三菱自動車の、世界に誇れる4WD性能が光る絶好のシチュエーションというわけです。
トライトンの4WD技術は、ランサーエボリューションやアウトランダーPHEVに搭載されているようなS-AWCではありませんが、パジェロで採用されていたスーパーセレクト4WD-II(SS4-II)にブレーキAYCを加えることで、同様の走破力を持たせたものとなっておりまして、最大の特徴はセンターデフをロックしない4WDモードを持っていること。ともにブレーキAYCが働くので、より曲がりやすくなるんですよね。
三菱伝統の悪路メカニズムを引き継いでいることもあって、走る道を選ばない。よく曲がり、よく止まり、よく走ってくれるクルマだ。
そして今回のコースは、急勾配/バンク/すり鉢/テーブルトップといった、2輪のトライアルをするような激しいコースが設定されており、まさにトライトンの真骨頂を発揮できるようなものとなっていました。
ちなみに、ドライブモードの選択ができるのもトライトンの特徴でありまして、まずは雪道ということでスノーモードを選択。トルクを抑えた発進でホイールスピンすることもなく、想定した通りの安定した走りが味わえます。とはいえ、ここは特設コース。もう少しヤンチャに走りたいということで、グラベルモードを選択してみます。
スノーモードのようなおしとやかさは姿を消し、たくましく進みながらも、ブレーキAYCを上手に作動さることで、縦横無尽によく曲がり、シチュエーション問わず駆け抜けられるといった感じに変化を見せます。テーブルトップに向かって急勾配の坂を駆け上がり、トップに立った瞬間急制動で止まるなんていう芸当も、お茶の子サイサイ(笑)。大きな躯体に似合わず、手足のように操れると言っても過言ではないでしょう。
このシチュエーションなら、オススメはこのグラベルモードだと思うのですが、じつは個人的にはセンターデフロックの4HLcのマッドモードが好みなんです。ラリーでもこの中のマッドモードをメインで走っているんですよね。というのも、センターデフをロックすることで直進性が高まるため、滑る中にも安定感があるので走りやすいんです。
2439cc4気筒ディーゼルターボの最高出力は204psだが、最大トルクは470Nmに達する。許容回転数は4000回転に設定されており、高回転の伸びやかさは薄めだが、低回転域から太く安定したトルクがあるため扱いやすい。2.1t前後の車両重量にも不足を感じさないパワースペックを持つ。
カタチはトラックだけど、その振る舞いはほぼSUV
もちろん、コースによって選択は変えていますが、今回もあえてこちらを選択。ちなみにこのモードだとブレーキAYCがオフになってしまうので、本来の旨味は減るわけですが、路面がどんどん荒れてきて抵抗が大きくなっても、前へと掻き分け進む走破力は高まりますし、素性の良さのおかげで十分に曲がってくれるんですよね。
ちなみにさらなる泥濘(ぬかるみ)に対しては、リヤデフロックボタンを押すという手もあります。これさえ押せば、考えられるどんな泥濘からも、どんなモーグルからも抜け出せると言ってもいいぐらいの最強になれちゃうんですよ。でも、ブレーキAYC等はもちろんカットされてしまうので、最新兵器的な旨味は減ります。しかし、いざ抜け出すにはこれほど有効な手段はないといった感じでなので、最後の最後の安心感があるんですよね。
センターデフフリーの4Hモードを備えていることもあって、急勾配もまったく苦にしない。狭めのコースでも縦横無尽に駆け抜けることができることは、トライトンの大きな武器になる。
さて、ここまで読んでいただいてお気づきの通り、三菱自動車の4WDシステムは、あくまでドライバーが主体です。これが最大の特徴となります。ドライバーの走破力を後押しし、無理だと感じた時は最後まで諦めずに助けてくれはするものの、邪魔はしない技術なんですよね。だから、操るという言葉しっくりくるんです。
ちなみに今回は使うところがなかったですが、前進も後退もヒルディセントコントロール(速度はクルマが自動でコントロールし、ドライバーはハンドル操作に集中できるデバイス)もついていますし、各種最新鋭安全デバイスも装備されていますから、冒険に出かけても安心ですし、日常的には静粛性も高く乗り心地もイイSUVとして扱えるので、ピックアップトラックであるということを忘れてしまうこと請け合いです。アナタもぜひ冒険に、トライトンと一緒に出かけてください。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(トライトン)
ピンクのラッピングが施されたトライトンで参戦するXCR スプリントカップ北海道 XCR スプリントカップ北海道は、2021 年より毎年北海道にて開催されている日本自動車連盟(JAF)公認のクロスカント[…]
最新の関連記事(SUV)
「RACEモード」や「AMGダイナミックエンジンマウント」をGLC 43に初採用 今回導入される2つのモデルは、エクステリアは、マット塗装の迫力ある外装色に専用加飾としてブラック&レッドのアクセントを[…]
装備設定の変更で、人気のブラック系パーツ&ホイールが、全グレードにOP設定 今回導入される「レンジローバー・イヴォーグ」2026年モデルでは、PHEVモデルの「P300e」に「S」と「DYNAMIC […]
法規対応&盗難防止機能の強化を実施 今回実施される一部改良では、法規対応を含めた機能装備の強化に加え、マイカー始動ロック&スマートキー測距システムなどの最新セキュリティ機能を追加することで、盗難防止機[…]
「ホンダは究極の“伝え下手”」凄いハイブリッドを作っていたぞ! ホンダは4輪事業を始めて60年以上が経つが、その中でHEV(ハイブリッド車)は約4割となる25年の歴史を持つ。1999年に登場した初代イ[…]
デビューから9年、毎年国内でも約1000台ペースで売れ続けている、ボルボのベストセラーモデル ボルボXC90は、ボルボラインナップの頂点となる3列シートの7人乗りのラージSUV。トップモデルの価格は1[…]
人気記事ランキング(全体)
ベース車両はダイハツのアトレー ダイハツ・アトレーは、主に商用バンとして開発された経済的な車両だ。軽自動車の規格内でありながら、効率の良いスペース活用で広い室内空間を確保。荷物の運搬を前提に開発されて[…]
ベース車両はミツビシのデリカD:5 ベースとなる車両は、三菱(ミツビシ)のデリカD:5。悪路走破性に優れた4WDシステムを搭載しながら、乗り心地や室内の快適性も確保されていることで、ミニバンの中でも人[…]
自動車業界を震撼させた通産省の業界再編法案 近代日本の産業の多くは、俗に「護送船団方式」と呼ばれる国の指導下で成長してきた。銀行や保険会社の利率や商品構成が、つい最近までどこも同じだったように、国の保[…]
ベース車両はスズキのエブリイ ベースとなる車両はスズキのエブリイ。燃費の良さや、運転のしやすさが際立つ軽自動車であるにもかかわらず、広い車内空間を誇る人気車だ。 シンプルでコンパクトな外観は、街乗りで[…]
ベース車両はハイゼットトラック ベースとなる車両はダイハツのハイゼットトラック。国内の一次産業から建設業や配送業など、さまざまなシーンで活躍している人気の軽トラックだ。広い荷台には様々な荷物を載せて運[…]
最新の投稿記事(全体)
「RACEモード」や「AMGダイナミックエンジンマウント」をGLC 43に初採用 今回導入される2つのモデルは、エクステリアは、マット塗装の迫力ある外装色に専用加飾としてブラック&レッドのアクセントを[…]
装備設定の変更で、人気のブラック系パーツ&ホイールが、全グレードにOP設定 今回導入される「レンジローバー・イヴォーグ」2026年モデルでは、PHEVモデルの「P300e」に「S」と「DYNAMIC […]
大人数でもOK! ベース車両はトヨタのハイエース ベースの車両はトヨタのハイエース。大型の荷室は、快適な車中泊空間や収納スペース、キッチンやベッドなどのレイアウトに柔軟に対応可能。カスタムの幅が広く、[…]
車の足元は暗くて見にくい、そんな時のコンパクトライト 車の座席の下は暗くて、何か物を落とすと見つけにくい。例えば夜、足元に小銭を落とした際などは、車内はとても暗くて、次の日の明るい時間にならまいと見つ[…]
ベース車両はトヨタのハイエース ベースの車両はトヨタのハイエース。堅牢な作りと高い信頼性で知られる商用バンの代表格。カスタムの幅が広く、アウトドアを中心としたユーザーに、非常に人気の高い車だ。 ハイエ[…]
- 1
- 2