
東京ドーム約140個分の広大な敷地に、世界最高峰のテスト環境を備えた試験場が愛知県下山に誕生した。構想から約30年を経て完成したTTC-Sは、「走る・壊す・直す」を繰り返しながら人とクルマを同時に鍛え上げる場所だ。今回、デザインエリア、ガレージエリア、そして第三周回路のバス見学という貴重な機会を得た。
●文:まるも亜希子 ●写真:トヨタ自動車株式会社/月刊自家用車WEB編集部
構想30年、東京ドーム140個分の試験場がついに完成
「Toyota Technical Center Shimoyama」は、豊田市(旧下山村)および岡崎市(旧額田町)の一部を含む場所にある。レクサスカンパニーとGRカンパニーの事業・開発拠点が同じ場所に共存することで、クルマづくりを進化させる狙いがある。2024年3月に全面運用を開始。従業員数は約3,000人(2026年5月現在)。総面積650.8ヘクタールという広大な敷地の約6割を本来の森林として保全し、新たな緑地を造成。放棄された森林の整備や枯渇した水田への手入れを通じて、自然と適度な距離感を保ちながら里山本来の姿を取り戻す保全活動を推進している。
「道がクルマをつくり、クルマをつくる人を鍛える」現場として、構想から約30年の時を経てついに完成したTTC-S(トヨタ・テクニカル・センター・下山)。自動車産業が100年に一度の大変革期を迎える今、トヨタが目指す「もっといいクルマ」づくりをさらに加速させるため、TTC-Sは先行技術開発、寒冷地、超高速試験、特殊環境試験など各役割を持つ国内の研究開発拠点を統括する本社テクニカルセンターと連携する新たな拠点として位置づけられる。
造成に10年を要したというニュルブルクリンクを参考に4分の1規模で設計されたカントリー路、特性評価路、高速評価路、ダートコース、整備フロア、企画・設計部門フロア、デザイン部門フロアで構成される「Toyota Technical Center Shimoyama」。
TTC-Sは東西に5.3km、総面積およそ650万㎡、東京ドームおよそ140個分という広大な敷地を誇り、テストコースは豊かな自然や高低差のある地形をほぼそのまま活かしながら、あらゆる道路状況を忠実に再現。全12種類の評価路が設けられており、とくにカントリー路は世界一厳しいサーキットと言われるドイツのニュルブルクリンクを参考に作られたことで有名だ。「走る・壊す・直す」という工程を何度も繰り返すことで、クルマは鍛えられ人も経験を積んでいく。そのため企画・設計からデザインや整備を行う建物は壁のないワンフロア設計で、コースを走り、ガレージで直し、フロアで考え、またコースへと出ていくという循環がスムーズに行えるようになっている。
立体造形と最新デジタル技術を融合させたデザインエリア
今回、TTC-Sの一部施設がメディアに公開され、デザインエリアとガレージエリアの見学と、第三周回路をバスで走ることができた。まずデザインエリアに入ると、天井から明るい光が差し込む気持ちのよいワンフロアの広大なスペースに、実物大のクレイモデルが4台置かれ、それぞれ別の作業が行われている。モデラーが削り出しを行う一方、スキャニングしてデータ化するための作業をしていたり、塗装済みのクレイモデルをMRで検証したりと、立体から感じる迫力や光の当たり方、面のつながりや美しさを現物で確認することにこだわっている。
デザイン部門フロアに隣接した場所に設置されるボディカラーやインテリア素材などを検討するエリア。フロアには原寸大のモックアップが置かれ、近距離で検討することができ、開発効率が向上したという。
中央のスペースにはデスクにディスプレイを置いて作業をする人たちがおり、その奥にはインテリアの素材やカラーを検討するインテリアデザイナーの作業スペースもあった。「これまでと、TTC-Sに来てからでは何か変わったことはありますか?」と質問すると、フロアが分かれていないのですぐに別のパートの担当者と相談しやすく、実際に色を塗って検討しやすくなり、作業がとてもスムーズになったと話してくれた。
「走って・直して・また走る」が一体化したガレージフロア
車両開発棟では「道がクルマをつくり、クルマをつくる人を鍛える」現場として、実験部門と車両開発部門が一体となる体制とするため関わるメンバーが一堂に会し、テストコースで走り込んだクルマのデータを実験部門から即座に吸い上げ、整備フロアで改良を行える体制が構築されている。
続いて、ガレージフロアへ。こちらはGRとレクサスで分かれてそれぞれが企画・設計・開発・テストを行うスペースとなっており、見学中もテスト走行から帰ってきたばかりのプロドライバーが、データ解析を見ながらエンジニアと議論をしている最中だった。設計を行うメンバーのスペースもクリアなパーテーションで仕切られているだけなので、常に車両を見ながら作業ができるようになっており、整備のためのリフト機器などもすぐ目の前に設置されている。PCでの作業中やディスカッション中に実車の確認が必要になれば、すぐにできるというのは効率がいいはずだ。
また、設計のスペースではリフトアップされた開発中の車両のすぐ横で、図面を広げて議論が行われていた。設計してすぐに実車で試し、結果が出なければすぐに別の検討をするという流れができているという。何より、エンジニアの皆さんが和気あいあいとした雰囲気の中で作業しており、充実した仕事ができている印象を受けた。
ニュルを参考にした第三周回路と、モリゾウが横転したダートコース
ラリーやダートトライアルなど未舗装路で車両を鍛えるため、ダートコースを設置。モリゾウ(豊田章男会長)氏「もっとクルマを鍛えたい」という強い思いから、当初は計画されていなかったが追加で造成されたという。ベース車開発のほか、GRパーツ開発にも使用されている。
そしていよいよ、バスで第三周回路を見学。以前、ドイツのニュルブルクリンクをレンタカーで走ったことがあるが、こちらはその4分の1規模で設計された全長約5.3km、高低差75mのコースとなっており、下山の地形を活かした多数のカーブが連なっている。クラッシュした形跡をそのまま残した箇所があり、失敗を教訓にするためというのもなるほどと思った。ここでは「対話できるクルマ」であるかを評価しているという。
この下山においてラリーカーの開発中にマスタードライバーであるモリゾウ氏が、クルマに不具合があったこともあり山に乗り上げて横転したGRヤリス。マスタードライバーとしてクルマを壊してまで開発を推進する象徴となるクルマとして展示されている。
さらに、ラリーやダートトライアルといった未舗装路での鍛え込みのためのダートコースも見学。マスタードライバーであるモリゾウ氏自身が横転するまで走り込み、そのクラッシュした車両がそのまま展示してあった。こうしたTTC-Sのさまざまな施設と取り組みを体感して、トヨタが一丸となって「いいクルマ」をつくるという同じ方向を向いた情熱をしっかりと感じた1日となった。
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