
日産のコンパクトSUV「キックス」が、待望のフルモデルチェンジを実施。自慢のe-POWERは最新の第3世代に進化するなど、先代でも高く評価されていた「走り」は、さらに磨かれたようだ。
●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久
コンパクトの枠を超えた堂々たるスタイリング
写真ではサイズ感が掴みにくいが、全長4355mmという数値はまぎれもなくコンパクトSUVのそれだ。しかし実車を前にすると、フロントエンドの厚みや堂々としたフロントマスク、大きく張り出したフェンダーが強い存在感を放ち、ひと回り大きなエクストレイル級の体躯に見違える。コンパクトクラスにありがちな効率最優先の合理主義とは一線を画す、堂々としたスペシャリティデザインが最大の特徴になる。
だからといって、実用性を犠牲にしているわけではない。ベルトラインから上は流行の5ドアクーペ風に絞り込まれており、踏ん張るようなロワボディとのコントラストが際立つ。ウインドウを限界まで外側に配置する実用一点張りの箱型モデルに比べれば、スペース効率にやや無駄はあるものの、この無駄こそがどっしりとした安定感ある佇まいを生むための価値ある投資にも思えるのだ。
外観からは後席の居住性に不安を覚えるかもしれないが、実際に乗り込むと大人の男性4名が快適に過ごせるだけの空間が確保。適度な着座姿勢をもたらすシート形状や、視覚的な圧迫感を抑えたインパネレイアウトもあって、長時間のドライブでも不満のない居心地の良さを実現している。
荷室容量に関しては、4名分のレジャーギアを余裕で飲み込むほどの広さはなく、積載性を最優先するユーザー向けとは言い難い。基本はタウンユースと割り切るか、あるいは2名乗車をメインとしたロングツーリング仕様として捉えるのが正解だ。個性の強いスタイリングでありながら、居住空間の実用性を要所でしっかり押さえていることが、新型キックスの特徴になっている。
主要諸元(X e-4ORCE)
全長×全幅×全高(mm):4365×1800×1610 ホイールベース(mm):2655 車両重量(kg):1550 乗車定員:5名 パワーユニット:1433cc直3DOHC(98ps/11.7kg-m)+モーター(フロント:105kW/315Nm リヤ:50kw/140Nm) トランスミッション:一段固定式 WLTCモード総合燃費:21.5km/ℓ ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ディスク(R) サスペンション:ストラット式(F)/トーションビーム式(R) タイヤ:215/60R17 価格:359万9200円
サイドビューは、力強く張り出したフェンダーがグラマラス。ツートーン仕様ではルーフ部分がブラックアウトされる。オーソドックスなフォルムだった先代と比べると、垢抜けた印象が強まっている。
第3世代e-POWERがもたらした静粛性の新境地
デザインやサイズ感の良さもさることながら、新型キックスで最も驚かされるのは快適性が劇的に向上していることだ。なかでも走行時の静粛性と乗り心地の進化ぶりは、目を見張るものがある。
先代に搭載されていたe-POWERは、バッテリー残量に余裕があるシーンでの静粛性には定評があったものの、負荷がかかり続ける連続走行となると、発電頻度が高まりエンジン騒音が高まる弱点があった。しかし、新型に搭載される第3世代のe-POWERは、エンジン始動時の静粛性が大幅に高められている。
純電動走行の絶対的な時間は先代と大差ないように感じられるが、エンジンが回った際の音が極めて穏やかな。始動と停止を頻繁に繰り返すような状況でも耳障りに感じない。急加速時にエンジン音がリニアに盛り上がるような高揚感こそ希薄だが、乗員に刺激や圧迫感を与えないジェントルな遮音特性を持つ。
さらに、パワートレーンの改良だけでなく、車外からの透過音やロードノイズの遮断も徹底されていることも特徴で、不快な高周波音やこもり音を巧みにコントロールすることにより、音の絶対値以上に、体感的な静粛性が高く感じられる仕上がりだ。
海外ではガソリンモデルを中心に展開しているが、国内では第3世代e-POWERを搭載するハイブリッドモデルのみが導入される。ベースエンジンは1.4ℓとなるなど、ノート/ノートオーラよりも格上の選択になる。
インパネまわりは、2枚の12.3インチ画面を繋いだ統合型インターフェイスが目を惹く。X系グレードでは上級装備はOPというものも多いが、プレミアム強化も新型の特徴のひとつ。
ルーフを絞り込んだわりには開口部は幅も高さも上手に確保される。床面は格納時に完全にフラットになるなど使い勝手も向上。荷室容量も十分に確保されている。
ダッシュ中央にも12.3インチディスプレイを配置。純正の車載ITとして、通信連携機能が強化された日産コネクトインフォテイメントシステムが組み合わされる。
キックスを買うなら「4WD」と言い切れる理由
乗り心地は、段差での揺れ返しが少なく、サスペンションが1発で収束する芯の通った剛性感が印象深い。路面の大きな突起を乗り越える時こそわずかな揺動感を残しているが、全体としてはコンパクトSUVの枠を超えたしっかり感がある。一クラス上のミドルサイズSUVに乗っているかのような錯覚を覚えるほどで、ここもこのクラスの中では飛び抜けている。
また、この優れた乗り心地の良さは、駆動方式でも感じるレベルが異なる。
2WD車のサスペンションは、旋回時のリヤの沈み込みを抑えたセッティングで、後輪側をやや突っ張らせることで、コーナリング時にフロントがスッと入る前下がりのロール姿勢を作り出す傾向が強めで、FF車として極めてオーソドックスな味付けになっている。
対して、e-4ORCEを搭載する4WD車は、加速やコーナリングの瞬間にリヤサスペンションをしなやかに沈み込ませる制御で、段差を通過する際は2WD車よりストローク感が豊かで乗り心地もより穏やかになる。後席に座るとその差は顕著。快適性は4WD車の方が明らかに1ランク上だ。
この4WD車のフットワークは、走る楽しさを求めるうえで高く評価できる。後輪のトラクションと荷重移動に連動してリヤが滑らかに動く挙動は、まるで上質なFR車を操っているかのようにも感じられる。加速の際に後輪にしっかりと荷重を乗せて曲がっていく感覚は、一般的なFFベースのSUVでは味わえないものだ。
本来、FFベースの車両で加速時にリヤを大きく沈み込ませるのは、姿勢制御のセオリーからは外れるものだが、キックスは前後モーターの駆動力を自在に配分できるツインモーター4WDの利点を活かした「e-4ORCE」と、その特性を最適化した専用サスペンションによって、FRライクなドライビングプレジャーと4WD特有の圧倒的な安定性を高次元で両立させている。
これはドライバーの満足感にとどまらず、同乗者の揺れを抑える快適性にも直結しており、まさに一石二鳥のシャシーチューニングといえる。
総じて走りの質感は、ベースとなるノートやノートオーラの上位モデルを名乗るにふさわしい仕上がり。最新モデルゆえの設計思想の進化を随所に感じさせてくれる。いまノートやノートオーラを所有しているユーザーであれば、新型の進化ぶりがより体感できるはずだ。コンパクトクラスにクラスを超えたプレミアム性を求める向きならば、新型キックスは真っ先に検討すべき1台になっている。
2WD車でもクラス上位の安定した走りを披露するが、e-4ORCEが組み合わされる4WD車の走りは、さらにその上をいく。ハンドリングや路面追従性、安定感は完全に別物。
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