
4速フロアシフトやセパレートシートの採用など、ライバルに先駆けたスポーティな志向で大衆の心を掴んだ初代カローラ。その成功を受け、2代目はボディサイズの拡大と装備の充実を図る一方で、さらなる高性能化へと踏み出した。ツインキャブを搭載する「1400SL」や「SR」に続き、その極めつきとして誕生したのが初代カローラ・レビン(TE27型)だ。「雷光」「稲妻」を意味するネーミングを与えられたこのマシンは、上級モデルであるセリカの強力な「2T-G型」ツインカムエンジンを移植。当時のトヨタ車としては珍しく、ラリーなどの競技参加を強く意識した極めて硬派な仕様に仕立てられていた。
●文:横田晃(月刊自家用車編集部)
K型に変わるメインエンジンとして1970年にデビューしたT型。そのT型をボアアップし、動弁機構をOHVからDOHCへ、キャブレターをソレックス2連装に変更したのが2T-G。ハイオク仕様(115馬力)のほかピストンを変更して圧縮比を9.8から8.8にしたレギュラー仕様の2T-GR(110馬力)もあった。
初代カローラのプラスαのポイントは、「スポーティ」
カローラを開発した長谷川龍雄主査が、「80点プラスα主義」を標榜したことはよく知られている。すべてが100点満点のクルマを作ることはできない。だから、すべての面で合格点である80点以上を取り、さらにどこかに他とは違う突出した魅力を与えることで差別化を図るという考え方だ。
初代カローラのプラスαのポイントは、「スポーティ」だった。庶民にはマイカーがまだ半分夢だった当時、人々が憧れた自動車の手本は大型のアメリカ車だ。堂々たる3BOXのセダンで、乗り込めばフカフカのソファのようなベンチシートが理想。メーターは、高級オーディオのチューナーのような横長デザインが定番だ。
変速レバーはハンドル横にのびたコラムシフトが上級の証し。今では常識の、床からレバーが生えたフロアシフトは、当時の人々にはトラックを連想させた。ところが、カローラは要所をメッキで飾った3BOXのセダンフォルムこそイメージ通りだったが、乗り込むと庶民の常識を裏切った。
シートはセパレートタイプで、メーターは円形の2眼式。しかも、シフトレバーは床から生え、ギヤ段数はそれまでの常識だった3速より多い、4速もあったのだ。あえて採用したそれらこそ、カローラはオーナー自身が運転を楽しむためのスポーティなクルマであるという、プラスαの主張だった。
初代カローラ
性能はもちろん、燃費も広さも快適さも80点以上。そこに、フロアシフトや丸型メーターなどで、スポーティな高級感を加えたのがポイントだった。
独立2眼式メーターは左が燃料計や水温計などのコンビメーター、右が速度計。ラジオはトランジスタ8石の高性能(通常は2石か4石)で、スイッチに連動して自動で1段飛び出すマグネットアンテナも採用されている。フロアシフトは現代車に比べるとずいぶん前方にあり、長いシフトレバーは根元付近で曲げられ、ノブをドライバー側に近づけている。
名機「2T-G」エンジンを搭載したカローラ/スプリンター最高峰モデルが登場!
1968年にはクーペのカローラスプリンターが登場して、より鮮明になったそのメッセージは人々に受け入れられた。そうして、カローラは日本人のマイカー像を、運転を楽しむためのスポーティなクルマへと定着させたのだ。かくして大成功したカローラは、1970年に登場した2代目になるとさらにその路線を押し進めた。
ボディタイプは最初からセダンに加えてクーペを用意。初代ではクーペの車名だったスプリンターは兄弟車として独立し、そちらにもセダンとクーペが用意された。一方、同年末に日本初のスペシャリティカーとなるセリカが登場。スポーティなクルマへの希求はさらに高まった。時代は毎年、面白いように給料が上がる高度経済成長期ローンも普及して若者にもマイカーがいよいよ現実的になる。
そんな時代を背景に、トヨタは1972年にカローラとスプリンターにさらなる飛び道具を投入する。それぞれ1.4Lが上限だったクーペボディに、セリカでデビューした1.6LのDOHCエンジン、2T-G型を積んだのだ。TE27型カローラレビン、スプリンタートレノの誕生だ。
初代カローラレビン(TE27)
月産目標はレビン/トレノ合わせてもわずか500台。商売としては決してうまみはないが、絶対的ベストセラー「カローラ」の中で、レビンはトヨタ技術のイメージリーダー的役割を与えられたクルマだった。
カローラクーペレビン1600(1972年式)主要諸元
○全長×全幅×全高:3945㎜×1595㎜×1335㎜ ○ホイールベース:2335㎜ ○トレッド(前/後):1270㎜/1295㎜ ○車両重量:855㎏ ○乗車定員:5名 ○エンジン(2T-G型):直列4気筒DOHC1588㏄ ○キャブレター:三国ソレックス40PHH3型×2個 ○最高出力:115HP/6400rpm ○最大トルク:14.5㎏・m/5200rpm ○最高速度:190㎞/h ○0-400m加速:16.3秒 ○最小回転半径:4.8m ○トランスミッション:前進5段、後進1段 ○サスペンション(前/後):ストラット式独立懸架/半楕円リーフリジッド ○タイヤ:175/70HR13 ○価格:81万3000円
スプリンタートレノ(TE27)
トレノとレビンの一番の違いがリヤの形状。トレノはレビンとは別物の四角い四眼のテールランプを採用。またフロントグリルまわりも形状が違う。
ヤマハとのコラボが生んだ当時世界でも希だった量産型DOHCエンジン
今ではエコカーにも効率を求めてDOHCエンジンが当たり前に積まれているが、1970年代初頭のそれは、世界を見回しても特別なスポーツカーのメカニズムと言えた。そんな中で、大衆向けコンパクトカーのカローラにDOHCを積むという商品企画は、トヨタにしかできない荒技だった。それを実現させたのは、1967年に登場したトヨタ2000GT以来の、ヤマハとのコラボレーションだ。
クラウン用の6気筒OHCを2000GTのためにDOHC化したヤマハは、その後もトヨタ1600GTやマークⅡGSSなどで、トヨタの実用エンジンをDOHC化する関係を確立した。セリカに搭載された1.6Lの2T-G型DOHCも、カローラにも積まれたOHVのT型1.4Lをベースに、ヤマハが手際よくDOHC化したもの。
トヨタとヤマハのコンビは、その時点でDOHCエンジンを量産する、世界でも希有な存在になった。ベースとなったT型エンジンの素性の良さも忘れてはいけない。機構的には旧式のOHVだが、カムシャフトが可能な限りエンジン上方に置かれ、サイレントチェーンで駆動されるOHCに近い構造で、バルブを押すプッシュロッドを短くする工夫がされていた。
吸気と排気をエンジンの左右に分けて配置した、クロスフローと呼ばれるレイアウトで、燃焼室形状もスポーツエンジンのような半球形を実現。プラグも燃焼室の中央に配置されるという、DOHCに近いデザインだったのだ。
おかげで、カローラクーペに搭載されたツインキャブのT型エンジンは、同クラスでは群を抜く95馬力を発生。足回りも固め、大衆車クラスでは初となる5速MTを組み合わせた1400SRは、登場当初ラリーにそのまま出場できるクルマとして話題になった。
ブラックアウトされたコックピットにスポーティな3本スポークステアリングが標準装備されていた。
金属バネを使用せず、ゴム板バネとウレタンをクッションとするエアホール付きのシート。前後調整は160㎜、シートバックはフルリクライニングが可能。フロントシートベルトは3点式を採用、リヤにもシートベルトを備える。なお内装色はこのフルブラックだけだ。
2T-G型DOHC、認可されたばかりの扁平タイヤ、そして迫力あるオーバーフェンダー…、当時は驚天動地の高性能車だった
レビン/トレノはその心臓を、115馬力の2T-G型DOHCに換装。タイヤも1400SRの155SR13から、認可されたばかりの偏平タイヤ175/70SR13とし、迫力あるオーバーフェンダーも備えて登場したのだ。グロスで115馬力のパワーも、175/70、しかも13インチというタイヤサイズも、現代の基準で見れば実用車レベル。しかし、当時のそれは驚天動地の高性能車であり、オプションでリミテッドスリップデフまで用意されるという本格的なスポーツ仕立ては、クルマ好きの度肝を抜いた。81万3000円の価格は同クラスとしては高価だったが、その内容を思えば、世界で一番安いDOHCスポーツに違いなかった。
オーバーフェンダーはボディ同色のFRP製(1973年4月以降はスチール製)。レビンは175/70HR13。ちなみにレビン以外もラジアルタイヤはオプションで選べた。
SRの190㎞/hに対し、210㎞/hまで目盛りが増やされたスピードメーター。タコメーターも7000回転からがレッドゾーンになる。オプションのヒーターの上の3連メーターは左から油圧計、油温計、電流計。SRの部分強化ガラスと違い、ウインドウは合わせガラスを採用。
トップカウルに付く大型エアインテーク。面白いことに内部のグリルがレビンは縦スリット、トレノは横スリットとされる。ワイパーは高速での浮き上がりを防ぐ黒塗りのフィン付き。
「憧れ」の存在から身近な一台へ、稲妻はたしかに進化しながら人々の記憶だけに残った
そうして華々しくデビューしたカローラレビン/スプリンタートレノは、当然のようにモータースポーツで活躍する。とくに、コンパクトなボディと機敏なハンドリングは、ラリーでは無敵。1975年にはトヨタのWRCでの初優勝も飾り、その名を世界に轟かせる役割も果たした。
その後もレビンは、カローラシリーズのイメージリーダーとして、歴代に設定されることになった。1974年に登場した2代目のレビンは、翌年施行された排ガス規制をクリアできず、わずか1年でカタログ落ちするものの、1977年になると電子制御燃料噴射と触媒の組み合わせで復活している。ちなみに登場当時、レビンは2ドアハードトップ、トレノはクーペという異なるボディだったが、復活の際に当初のトレノと同じクーペボディとなり、マスクで差別化された。
初期の電子制御による2T-GE型エンジンはソレックスツインキャブ時代の鋭さを削がれたものの、排ガス対策技術の進化でもっとも厳しい53年規制をクリアした1978年以後は、ふたたびパワフルな走りを取り戻し、クリーンなエンジンでもスポーツカーは作れることを世界に印象づけた。
1979年に登場した4代目カローラの時代には、旧式のリーフリジッドのリヤサスがリンク式に改められ、よりシャープなハンドリングを手に入れた。クーペのレビン/トレノだけでなく、セダンやハードトップ、2ドアハッチバックに2T-G型エンジンが搭載され、そちらはGTを名乗って、高性能カローラは一気に普及する。
トヨタWRC初優勝をもたらした27レビン
2017年シーズンついにWRCに復帰、その2戦目で早くも勝利したトヨタ(GAZOOレーシングチーム)。今年はヤリス(ヴィッツ)で戦っているが、かつてその主役だったのがセリカであり、レビンだった。とくにレビンはトヨタチームとしてWRC初の総合優勝を飾ったマシン。その後1980年代から1990年代はじめにかけ、セリカGT-FOURを主力にTTE(トヨタチームヨーロッパ)はWRCを席巻する。
レビン/トレノという特別だった存在感が薄れたAE86だったが、最後のFRライトスポーツとして、いまだに人気は絶大だ
そのシャシーを受け継いで1983年に登場したレビン/トレノの真打ちが、今なお伝説的な人気を誇るAE86型だ。このクルマでデビューした新世代DOHCの4A-G型エンジンは、例によってヤマハの手で4バルブのヘッドが与えられ、高回転までカーンと回る、新たな魅力が与えられた。もっとも、このモデルからクーペ系のボディがすべてレビン/トレノを名乗るようになり、特別なクルマとしての存在感が薄れていったのも事実だ。
1987年デビューの6代目レビン/トレノからは駆動方式はFF。スーパーチャージャーで165馬力を絞り出すまでになったが、かつての熱狂は取り戻せなかった。走りは実用グレードでもTE27の時代よりはるかに進化したにもかかわらず、コンパクトなボディに高性能を秘めたレビン/トレノは、身近な存在になったがゆえに、本来の立ち位置を見失ってしまったのかもしれない。
カローラ3ドアレビン1600GT APEX(1983年式)
トヨタはライバルに比べFF化は比較的遅く、カローラは通算5代目のこのモデルからの採用となった。しかし横置きFFのセダンに対し、レビンはを含むクーペ系はコンベンショナルなFR駆動を踏襲。86は歴代最後のFRレビンとなった。エンジンは2T-G系に変わって気筒当たり4バルブの4A-GEU型を搭載。先代から流用となったプラットフォームのスタビリティはけっして高いとはいえず、それがかえって自在に振り回せるじゃじゃ馬的ドリフトマシンとして人気となった。ハッチバックに限らず、この代から2ドアノッチバックのハードトップにもレビンの名が使われている。
カローラ3ドアレビン1600GT APEX(1983年式)主要諸元
○全長×全幅×全高:4200㎜×1645㎜×1335㎜ ○ホイールベース:2400㎜ ○トレッド(前/後):1365㎜/1360㎜ ○車両重量:980㎏ ○乗車定員:5名 ○エンジン(4A-GEU型):直列4気筒16バルブDOHC1587㏄ ○最高出力:130PS/6600rpm ○最大トルク:15.2㎏・m/5200rpm ○燃料タンク容量:50ℓ ○最小回転半径:4.8m ○トランスミッション:前進5段、後進1段 ○サスペンション( 前/後):ストラット式独立懸架/ラテラルロッド付き4リンクコイル ○タイヤ:185/70HR13 ○価格(東京地区):154万8000円
吸気圧力を検知して燃料噴射量を制御するEFI-Dなど、最新技術も導入され高性能と低燃費を両立した4A-GEU型エンジン。鋭い吹き上がりに定評があった。
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