
オーダーストップが続くRAV4や400万円を超えてしまったエクストレイルなど購入視点では狙いにくくなりつつあるミドルSUVだが、そんな状況のなか、5月に発売された現行CX-5はライバル勢が狙えない美味しいところを独占しているという。そのキーワードは「安く・広く・すぐ届く」だ。
●文:月刊自家用車編集部
「走りのマツダ」を捨てた選択が吉だった
新車の納期の長期化が常態化して久しい国内SUV市場。その中で2026年5月に登場した3代目となる現行CX-5は、堅調な足取りで確かなセールスを築き上げている。
実際の販売も好調で、発売1か月で月販目標の5倍となる1万台超を受注。これほどのバックオーダーを抱えながら生産の稼働計画は淀みなく、契約後の納期は2〜3か月という目安を維持している。初期受注ではその65%を400万円を超える最上級「L」グレードが占めるなど、販売視点としても大成功といっていい。
ライバルのトヨタ・RAV4は受注殺到でオーダーストップ、日産はエクストレイルの価格改定(エントリーグレードでも400万円の大台からに)が実施されるなど、ユーザーサイドからすると悩ましい状況が続くが、CX-5は他メーカーからという買い替えも相当あるという。ミドルSUVを求めるユーザーの最新ニーズに、実に的確に応えている格好だ。
9月登録でも3984台を記録し、前月比137.9%と快進撃を続ける現行CX-5。販売の主力は上位グレードだが330万円からの攻めた価格設定のインパクトは大きい。買い替えを検討する幅広いユーザー層の心を掴んでいる。
この滑り出しの良さの立役者として、まずは注目したいのが、マツダが従来の「ドライバー中心思想」を脱し、徹底して「同乗者や家族の実用性」へ舵を切ったパッケージングの転換だ。
現行CX-5の大きなセールスポイントとして挙げられるのは、ホイールベース115mm延長による後席居住性の劇的な改善や15.6インチの大型ディスプレイの採用、日本仕様初となるGoogleビルトインの搭載など、ユーザーがクルマで過ごす時間の利便性向上が挙げられる。
象徴だったコマンダーを廃し、15.6型タッチパネルとGoogleを新採用。スマホ世代の使い勝手を最優先した室内設計が、これまでのマツダ車にない親しみやすさを生む。
さらに象徴的な変化として見逃せないのが、インパネから姿を消したコマンダーコントロールだ。マツダはこれまで「ブラインド操作こそが安全」として、センターディスプレイのタッチパネル化に消極的だった。しかし今回、その考えをあっさりと捨て、コンソール中央にはタッチパネル式の大型ディスプレイを配置。スマートフォンネイティブ世代を意識したインターフェイスに刷新が図られている。
ホイールベースを115mm延長したことで、大人でも足を組んで寛げる居住空間を確保。先代の泣き所だった後席の窮屈さを払拭し、正統派ファミリーSUVへと完全に脱皮した。
パワートレーンの割り切りも徹底したもので、これまで世界戦略の柱だった直4クリーンディーゼルを初動から外し、2.5L自然吸気ガソリン+マイルドハイブリッドの単一展開とした。最高出力178ps/最大トルク24.2kg-mというスペックに新鮮味はなく、「走りのマツダ」を期待する層には肩透かしに見えるかもしれないが、この選択も好調なセールスを導いた理由だ。
現行CX-5の凄みは、そうした割り切りと引き換えに、ミドルSUVという枠組みや上位セグメントの存在意義を根底から揺さぶっている点にある。
居住性を大幅改善。兄貴分のCX-60を脅かす下剋上パッケージが効いている
先代までのCX-5は、魂動デザインから導かれる流麗なスタイリングと引き換えに、後席の足元空間やラゲッジ容量でRAV4やエクストレイル、フォレスターといった実用性重視のライバルに後れを取っていた。しかし現行CX-5は、ホイールベースを2815mmまで拡大した。この数値はミドルSUVの中でもラージ寄りで、大人が足を組んでくつろげるキャビンと、ゴルフバッグ4個を余裕で呑み込む466Lのラゲッジを生み出している。
実はこの実用性の底上げは、皮肉にも自社の「CX-60」を直撃している。 社運を賭けたFRプラットフォームや直6ディーゼルを備えるCX-60だが、初期モデルの硬質な乗り味や大柄なボディがもたらす扱いにくさは、一般的なSUVを求めるファミリー層にとっては小さくないハードルとなっており、これが販売が伸び悩む一因になっていた。
そんな中、新たに登場した現行CX-5は、ゆとりある室内空間に加え、新設計ダンパーによるフラットで角のない乗り心地を獲得するなど、「気負わず乗れて、同乗者も快適」というキャラクターはファミリー層からも素直に歓迎されている。 良好な視界、扱いやすい車格、広々とした室内空間、そして最新のインフォテインメントを備えるCX-5は、ミドルSUVを求めるユーザーのニーズを上手に取り込んでいるのは明らかだ。
兄貴分のCX-60の9月登録は551台に留まる。直6のディーゼルターボも選択でき値引きも拡大傾向でアピールするが、実用性と乗り心地で勝るCX-5が優位な状況が続いている。
コスト面に優れたエンジンで原価を圧縮。脅威の330万円スタートを実現
そして見逃せないのが、お値ごろ感のあるプライスゾーンを貫いたことだ。先代CX-5は200万円台後半から狙えるエントリーグレードが用意されるなど、ミドルSUVとしては破格のお買い得モデルでもあった。
現行CX-5でもそのあたりのニーズは重要と考えているようで、最もベーシックな「S」は330万円から、最上級グレード「L」でも2WDなら407万円、4WDでも430万6500円とミドルSUVの中ではかなり攻めている価格設定になっている。他社ライバルの商談で「予算を大幅にオーバーしてしまう…」と頭を悩ますユーザーに対して、現行CX-5は有力な受け皿のようなポジションも健在というわけだ。
では、なぜこれほど充実した装備を与えながら、330万〜430万円という価格帯が成立したのか。ここで先に述べた「地味なパワートレーン」という選択が大きく効いてくる。
搭載される2.5Lガソリンエンジンと6速ATは、長年にわたりグローバルで量産され、金型や製造設備の減価償却もほぼ終わっているだろう。大容量バッテリーや複雑なメカニズムを必要とする本格的なハイブリッドを積めば、車両の原価は数十万円単位で跳ね上がるのは容易に想像できる。
そこでマツダは、あえて熟成が進んだ高い完成度を持ちながらも、コスト目線では枯れた組み合わせを選ぶことで原価を抑え、そこで浮いたコストを大型ディスプレイやGoogleライセンスの費用、質感の高いシートマテリアルといった、ディーラーのショールームでユーザーに即座に伝わる商品力へ一点集中させた格好だ。
パワートレーンは2.5L直4+Mハイブリッドのみ。コスト制約がユニットに徹したからこそ330万円スタートというミドルSUVとしては破格な価格帯を成立させている。
ダンパーが不快な揺れや突き上げをいなし、目線がブレないフラットな乗り味を実現。過度なスポーティさを追わず、家族みんなが酔いにくい快適な乗り心地に徹したことも評価が高い理由のひとつ。
「安く・広く・すぐ届く」ユーザーの欲しがるニーズを独占中
他社のライバルはいずれも手堅く好調な動きだが、それぞれに構造的な弱みを抱えている。トヨタのRAV4やハリアーは、ハイブリッドの圧倒的な燃費性能を武器にするが、世界的な需要過多と部品調達の制約もあって納期は遅れがちだ。
日産のエクストレイルは「e-POWER+VCターボ」の凝ったメカニズムゆえに価格の高止まり感が否めない。さらに、ストロングハイブリッドを積んで全面刷新されたスバル・フォレスターも、4WD主体でさらに主力のハイブリッドモデルが437万8400円からと、手頃な2WDのミドルSUVを求めるファミリー層には少々敷居が高くなってしまった。
トヨタRAV4(左)は依然として全国的なオーダーストップ状態が続く。ハリアー(右)も改良時にハイブリッド専用モデルとなったことで高価格帯にシフトしており、手頃ですぐ届くCX-5へ顧客が流入している可能性は高い。
フォレスターは最新改良時にS:HEVが437万円からと価格が上昇してしまった。全車4WDモデルになるため、手頃な2WDを求めるファミリー層にとって少し狙いにくくなってしまった。
「e-POWER」を搭載するエクストレイルは、価格改定で400万円台が中心に。値引きはそれなりに期待できるが、価格重視の視点では割安なCX-5に分が悪い。
対するCX-5は、構造がシンプルな2.5Lガソリンを主軸に据えているため、コスト面でも調達リスクの負担は極めて低い。月産ペースも維持しやすく、2〜3か月で確実に納車されるという、流通において最大の武器を手に入れていることも大きいだろう。「安く」「広く」「すぐ届く」というメリットに対して、ライバルたちは有効な対抗策を打てずにいる。
現状では、ライバル勢が仕掛けてくるのは値引きなどの消耗戦ではなく、泰然自若とした住み分けだ。
圧倒的なバックオーダーを抱えるトヨタが、CX-5に対抗してRAV4やハリアーの値下げや装備の見直しを検討する理由はどこにもない。日産もスバルも原材料高騰の中で利益率の維持を最優先しており、電動化技術やブランド価値を前面に出した高価格路線を維持している。
結果として現行CX-5は、ライバルが価格高騰によって見捨てざるを得なくなった、350万から400万円前後の美味しいボリュームゾーンを独占しつつある。ライバルと泥沼の戦いをすることなく、独自のシェアを着実に固められている状況だ。
マツダはかつて「走りの良さ」を声高に叫び、マニアの共感を集めていたが、その路線一辺倒からの脱却に成功しつつある。現行CX-5で際立つのは、こだわりを躊躇なく捨て去り、生活者の道具としての要件を満たしたプロダクトの強さになる。
現に圧倒的な実用性と高いコストパフォーマンスを数か月の納期で手中に収められる現在の状況は、購入視点でもメリットは多い。そう感じるユーザーが多いことは堅調な販売実績からも明らかだ。
折しもミドルSUV市場は各社のフルモデルチェンジラッシュが一服した直後であり、当面は強力なニューモデルの投入予定もない。このタイミングの良さも味方だろう。なお、2027年にCX-5はストロングハイブリッドの投入を予定しているが、最新技術の採用によりそれなりの価格アップは必至。CX-5の中でも相応のシェアは動くだろうが、それでも現状のガソリンハイブリッド車の優位は覆らないはずだ。
しばらくは300万〜400万円台のど真ん中で存在感を発揮する現行CX-5が、美味しい状態を維持することは間違いなさそうだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(マツダ)
57年前とは思えない美しいデザイン。セダンとは異なる設計を採用した高級クーペ 1967年5月、マツダは世界初の量産2ローターロータリーエンジン車「コスモスポーツ」を発売し、自動車業界にその技術力を知ら[…]
ガソリンだけでなくバイオ燃料や水素にも対応可能な発電用2ローターRE。薄型化された制御系とコンパクトなレイアウトで、電動化時代における内燃機関の新たな可能性を提示する。 未来の技術としてマツダはロータ[…]
値引き情報の見方 ◎車両本体目標 車両本体価格からここまで取れれば成功という額。付属品からの値引きは含まない。 ◎リセール予想 次に買い替える時の下取り査定額。2~3年後の評価をA~Eの5段階で評価。[…]
値引き情報の見方 ◎車両本体目標 車両本体からの値引き目標額を示している。実際の値引き額は、販売店や購入時期、グレード、オプションなどによって変動する。 ◎リセール予想 購入したクルマを将来売却すると[…]
値引き情報の見方 ◎車両本体目標 車両本体からの値引き目標額を示している。実際の値引き額は、販売店や購入時期、グレード、オプションなどによって変動する。 ◎リセール予想 購入したクルマを将来売却すると[…]
最新の関連記事(ニュース)
本格クロカン性能に「乗用車並みの快適性」と「最高級の上質さ」をプラス 今回登場した新型パジェロは、歴代モデルが長年にわたって培ってきた「優れた悪路走破性」と「高い信頼耐久性」という本格四輪駆動車として[…]
そもそも「シニアカー」って何? 免許返納後の移動手段として注目 高齢者の移動手段として知られる「シニアカー」。これは一般に、ハンドルで操作する座席付きの電動車いす型モビリティを指す言葉だ。 スズキにも[…]
税込119万9000円! 1人乗り小型EV「T-mini」とは? T-miniは、電気で走る1人乗りの小型モビリティ。車両価格は本体価格109万円、税込119万9000円だ。屋根やドアに加え、エアコン[…]
一番人気はクラシックMINIを思わせる「インスパイアード・ホワイト」 昨年の「ジャパンモビリティショー2025」で世界初公開され話題を集めた同モデルは、電気自動車(BEV)だけでなく、高効率ガソリンエ[…]
1位「200円で150km」「3人乗り」バイクのような見た目でクルマ級の個室感! 電動トライク「URBAN TRIKER」を販売するビークルファンが名古屋に新拠点オープン この記事で分かること ドア付[…]
人気記事ランキング(全体)
雨の日に意外と困る「ドアミラーの水滴」 雨天時の運転では、フロントガラスならワイパーで視界を確保できる。サイドウインドウも、走行中であれば風によってある程度水滴が流れ、どうしても見えにくければ窓を一度[…]
使っていないUSB端子が、愛車をドレスアップする場所に変わる!? 愛車のインテリアにちょっとした変化を加えたい。そう思っても、内装パーツの交換や本格的なイルミネーションの設置となれば、費用も手間もかか[…]
oplus_0 創業150年の「岡本屋旅館」のミルキーブルーの露天風呂と絶品グルメが魅力 「RVパーク Charlie’s Lanai」は、別府八湯の明礬温泉に位置し、名物「地獄蒸しプリン」で知られる[…]
見落としていた便利なスペース! ヘッドレストが収納場所に変身 スマートフォンのホルダーや充電器、ドリンクホルダーなど、車内を便利にしてくれるカーグッズは数え切れないほど存在する。こうした製品を上手に取[…]
RVパーク 大江戸温泉物語Premium 下呂本館 車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推進する「RVパーク」は、キャンピングカーやマイカーで旅行を楽しむユー[…]
最新の投稿記事(全体)
「走りのマツダ」を捨てた選択が吉だった 新車の納期の長期化が常態化して久しい国内SUV市場。その中で2026年5月に登場した3代目となる現行CX-5は、堅調な足取りで確かなセールスを築き上げている。 […]
三菱「新型パジェロ」タイ仕様のスペックは? 新型パジェロは、悪路走破性や耐久性を重視した本格クロスカントリーSUVだ。トライトンをベースとするラダーフレーム構造を採用しながら、SUVとしての乗り心地や[…]
今回のテスト車両(日産サクラ) カーナビやディスプレイオーディオの拡張性を飛躍的に高めてくれる注目のカー用品 データシステム「USB KIT(CEA940)」は、カーナビやディスプレイオーディオの拡張[…]
セレステ(青い空)に込められた、低公害時代に真っ向から立ち向かう決意 1970年代半ば、自動車業界にとってまさに「冬の時代」が訪れていた。オイルショックによる燃料価格の高騰で省燃費志向が急速に高まる一[…]
国産車をメインとした新車バイヤーズガイド「月刊自家用車」が電子版として装いも新たにスタートしました。全ページ無料でご覧いただけますのでこの機会にぜひご一読を! 今月はランドクルーザーシリーズの魅力解説[…]
- 1
- 2






























