
乗用車ベースのSUVとは一線を画す本格オフローダーの定番スズキ・ジムニー。そのDNAを受け継ぎ、全長とホイールベースを340mm延長して実用性を劇的に向上させた5ドアモデル「ノマド」の実力はどうなのか。居住性からオンロード特性、悪路走破性に至るまで、検討の際に気になるポイントを細かくチェック。今回は富士ヶ嶺オフロードコースと周辺のオンロードを走行してみた。
●文:川島茂夫 ●写真:奥隅圭之
最小サイズでも、耐久性と走破性を兼ね揃えたホンモノ
SUVを走行性能や用途で分類するなら、街乗りやレジャーでの実用性を重視した「クロスオーバー」と、悪路でのタフさを追求した「オフローダー」に二分できる。当然、ハードな悪路走行での耐久性を求めるならば、本格的なメカニズムで武装したオフローダーの一択になる。
その代表格が、軽自動車のジムニーである。軽量コンパクトな車体はクロカン入門に最適なだけでなく、日常での使い勝手もいい。それでいて、悪路の踏破性はトップクラスを誇る定番モデルだ。
このジムニーの魅力をそのまま普通登録車枠へスケールアップしたのが「ジムニーシエラ」だ。軽のジムニーは車重が1070kg(AT車)もあり、900kg以下のハスラーと比べると約200kgも重いため、動力性能の厳しさは否めなかった。そこでシエラはエンジンの排気量を拡大。パワーウエイトレシオ(出力重量比)を劇的に改善させている。
ただし、シエラはタイヤ幅を拡大してワイドトレッド化しているものの、基本車体やキャビンサイズは軽のジムニーと同じだ。4人乗りとは名ばかりで後席は大人が座るには狭く、後ろに人が乗ると荷室は日常の買い物程度しかスペースが残らない。つまり、居住空間の面では恩恵がほぼなかった。
車両周辺の状況を把握しやすいスクエアボディ。ノマドはホイールベースが延長されロングボディとなったことで、最小回転半径は5.7m(シエラは4.9m)と小回り性能は落ちてしまったが、キャビンスペースの拡大や走行安定性の強化など、それに見合う進化を遂げている。
主要諸元(ジムニー ノマド FC MT車)
●全長×全幅×全高(mm):3890×1645×1725 ●ホイールベース(mm):2590 ●最低地上高(mm):210 ●車両重量(kg):1200 ●乗車定員:4名 ●パワーユニット:1460cc直4DOHC(101ps/13.3kg-m) ●トランスミッション:5速MT ●WLTCモード総合燃費:14.9km/L ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)リーディングトレーリング(R) ●サスペンション:3リンク式(F)3リンク式(R) ●タイヤ:195/80R15 ●価格:292万6000円
居住空間の不満を解消したことで、本命モデルになれるのか?
その弱点を克服したのが、今回登場した5ドアの「ジムニーノマド」だ。
ホイールベースと全長を340mm延長し、その増加分をすべて荷室の拡大に充てた。荷室までしっかりとフルトリム化されているのもノマドの特徴である。
後席の足元スペースは数値上そこまで広くなっていないが、シート自体がシエラとは別設計になっている。クッションに厚みを持たせ、サイズ自体を大きくしたことで、座り心地は大幅に向上した。室内幅は変わらないため乗車定員は4名だが、リヤドアの追加と快適なシートのおかげで、4人でのちょっとしたロングドライブも十分にこなせる実用性を手に入れている。
長距離ドライブを支える運転支援(ADAS)の充実も見逃せない。AT車には全車速型、MT車には高速型のACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を用意し、車線逸脱抑制機能付きのLKAも装備する。機械式サイドブレーキのため停車保持機能はないが、このクラスとしては十分な設定と言えるだろう。ちなみに、このACCは昨年11月の小改良で3ドアのジムニー/ジムニーシエラにも追加されている。
ジムニーの伝統を受け継ぐスクエアで無骨なデザイン。大型モニターの採用などで現代的な利便性を高めつつ、過酷なオフロード走行時でも操作しやすいスイッチ類を機能的に配置する。
基本特性は、どこまでも古典的なオフローダー
では、ノマドは長距離ツーリングが得意なクルマになったのか。正直な印象を言えば、「得意」とまでは言えない。乗り味はどこまでも本格オフローダーのそれだ。
ホイールベースが伸びたことで挙動はゆったりしたものの、善くも悪くもジムニーの血統を感じさせる。衝撃を吸収する大容量のブッシュや、車体の捻りを逃がすラダーフレームは、悪路での強靭さをもたらす一方で、ハンドル操作に対する応答の遅れや曖昧さに繋がる。そのため、クイックな操作を好むドライバーには不向きだ。
逆に、クルマの動きに合わせてゆったりと対話するように運転できるユーザーなら、意外とすぐに馴染めるはず。今回の試乗では最初は少し違和感を覚えたがすぐに慣れた。オフローダーにとっては、これも運転の対話感なのだろう。
オンロードのフットワークは、大容量ブッシュが不快な衝撃を吸収分散し、特有の癖を上手にいなしている。ただし基本は古典的なオフローダー。操作に対する応答の遅れや曖昧さは否めず、快適性という点では平凡なレベルに留まる。
ところが一旦オフロードコースに入ると話は全く変わってしまう。本領発揮の走りをこれでもかと見せつけてくれるのだ。オンロードの走りと比べると雲泥の差だ。
今回走行した、一見ハードに見える深掘りされたモーグル(凸凹路)も、ジムニー系にとっては「ぬるま湯」レベルでしかない。
前輪を穴に落として後輪が浮いてしまうような状況でも、電子制御ブレーキLSDが瞬時に介入し、空転するタイヤにブレーキをかけ、接地しているタイヤへ確実に駆動力を伝えるため、何のアクションもなく平然と走り抜けてしまった。ヒルスタートアシストやヒルディセントコントロールなど、悪路での運転支援も抜かりなかった。
あとで、大してオフロード走行経験のない担当編集スタッフもステアリングを握ったのだが、その際も同乗者としてまったく不安を感じなかった。やはりクルマの能力が抜きん出ているためなのだろう。
ジムニー・ノマドの悪路走破性はまさに本物。深いモーグルで前輪を穴に落とし、対角線上の後輪が浮き上がるような厳しい状況でも、悪路で柔軟に「よく動くアシ」が路面を追従。さらに電子制御LSDの介入により空転を抑え、難所を何事もなく突破する。
利便性が大きく跳ね上がったノマドだが、選ぶべき大前提は極めてシンプル。このクルマの本質は、日常を便利にする道具ではなく、非日常と言えるオフロードも同時に楽しむための相棒なのだ。
悪路やアウトドアに引っ張り出してこそ、このクルマは唯一無二の輝きを放つ。初心者向けコースであれば、サーキットを走るよりも安全に非日常のワクワク感を味わえるのは間違いない。
そのため、どれだけ使い勝手が進化したとしても、純粋なファミリーカーとしてど真ん中のモデルとはなり得ないだろう。あくまでも、日常使いも可能になった本格クロカンモデルという立ち位置なのだ。
しかし、「ノマドを手に入れて、クロカンとアウトドア趣味にどっぷり浸かる人生もかなり面白そうだ」と感じたのは事実。本物の実力持った一台を所有する喜びを、これだけリーズナブルに味わえるのは、多くの車好きにとってはたまらないはず。ジムニーシリーズの人気理由を確認し、改めて感心した試乗だった。
注目の後席はシエラとは別設計で、クッションの厚みとシートサイズを拡大したことで座り心地が大幅に改善されている。室内幅の制限から定員は4名だが、しっかりした座り心地により長距離ドライブへの対応レベルも高まっている。
荷室スペースはシエラ比で延長されたホイールベースの増加の恩恵を実感でき、実用性は大幅に向上している。後席使用時でも日常の買い物レベルでは不満を覚えることは少ないだろう。
快適になったとはいえ、純粋なレジャーワゴンとして見れば無駄の多い設計なのは事実。このクルマは、ハードな悪路へ連れ出してこそ、その真の価値を100%発揮する。
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