2024年9月に登場したシビックRS。ガソリンエンジンに6速MTのみの設定と聞くと、既存のスポーツモデル「タイプR」の廉価版なのかと思えてしまうが、公道試乗をしてみてキャラクターやコンセプトの違いが見えてきた。
●文:川島茂雄 ●写真:奥隅圭之
シビックの新グレードとして追加されたRS(ロードセーリング)
「RS (ロードセーリング)」というグレードは現行モデルではN-ONEとフィットに設定され、シビックは「RS」系統では最上級かつ最新となる。といっても搭載される1.5L4気筒ターボのパワースペックは標準系(LX/EX)と共通。
FF最速の座を求めたタイプRの2.0Lターボに対して最高出力は約150PS、最大トルクは約18kg・mほど低く、絶対的速さを基準にするなら比較対象にもならない。スペックで見るなら標準系の横並びのスポーティモデルなのだ。
操る楽しさを磨いたシビックRS
速さより操り心地にこだわっているのがシビックRSである。例えば専用設定の6速MTには慣性モーメントを従来型から30%減少させた軽量フライホイールを採用。加速性能の上乗せは僅かだとしても、シフティングの操作感向上には効果的。高回転まで回した素早いアップシフトでも気持ちよく決まる。6000回転超までストレスなく周り、軽快な加速感を持続するエンジンと相まって、速さを求めてなくても高回転まで引っ張りたくなる。
シフティングの心地よさのこだわりはダウンシフトにも表れている。タイプRにも採用されているレブマッチシステムを搭載。ダウンシフト時の回転合わせを自動化。空吹かしレスポンスがいいこともあって、これもスパッと決まる。ちなみにドライバーのアクセル操作が優先されるのでヒール&トウ等々のドラテクを駆使するのも可能だが、正直言って苦労してもレブマッチシステムほどぴたりと合わせられないので、試乗の途中からはダウンシフトはシステム任せだった。
なお、レブマッチシステムはノーマル/スポーツ/ECONのいずれのモードでも作動。回転を抑え変速頻度が高い省燃費走行との相性もいい。走行状況に関わらず役立つシステムだ。
「こだわり」仕様の専用サスチューニング
RSのもうひとつの特徴が専用にチューンされたフットワーク。スプリングやダンパーだけでなくブッシュ類のチューニングまで踏み込んで仕立てられている。パワートレーン以上の「こだわり」仕様である。
その性能だが、一言で纏めれば近年のホンダ車のフットワークの最新仕様。高速域での安定性を重視したハードウェアセッティングをベースにアジャイルハンドリングアシスト(AHA)でタイトターンのライントレース性を向上させる。もっとも、標準系のフットワークも同様の思想で設計されているので大きな流れでは同じなのだが、更なるステップアップを図ったのがRSなのだ。
乗り心地でも挙動でも不要な揺れ返しや揺動がとても少ない。硬軟の尺度で言えば明らかに標準系より硬く、スポーツモデルらしいのだが、身体に堪えるような突き上げや振動が少ない。さらに言えば標準系では段差通過後に車軸周りの揺動感もRSにはない。
見えてきたタイプRとの違い
RSのハンドリング特性は速度や旋回半径による変化が少なく、どこでもいつでも弱アンダーステア。タイプRに近い特性だが、硬柔の按配が標準系とタイプRの中間。仲間や家族とのツーリングにも無理がないところで纏めているのもRSの美点である。
一方で、タイプRはFF最速を目指したスポーツモデル。2.0LのVTECターボエンジンにスパルタンな足回り。サーキットでのスポーツ走行で、コンマ何秒を削るように造られたモデルであり、リヤシートの空間も十分確保もされているが、日常でのレジャードライブに向いているとは言いづらい。
価格はガソリンEXの約40万円高、タイプRの約50万円安。なかなか悩ましい価格設定だが、一般用途での使い勝手や経済性と良質なファントゥドライブの両立を求めるならRSはいいバランス。すべてが高水準で纏まっており、タイプRのような極限の速さを求めたモデルと違い、大人なスポーティモデルとも言える。ただ、個人的にはe:HEVのRSが追加されてほしいと思うのだが。
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