
日本の軽自動車市場へ本格参入を果たしたBYD「ラッコ」。人気のスーパーハイト系に焦点を合わせた注目の軽乗用BEVだ。既存の軽とは一線を画す質感の高い乗り味や最新の装備、圧倒的なコストパフォーマンスを備え、日本の軽EV市場に新たな風を吹き込む話題の1台を徹底解説&試乗インプレッションする。
●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久
即戦力狙いのボディ設計で、馴染み深い圧倒的大空間を実現
ラッコ(RACCO)は、中国のBEV(電気自動車)大手メーカーであるBYDが、日本の軽自動車市場に向けて開発したスーパーハイト系の軽乗用BEVである。日本の道路事情やユーザーの利便性を追求した全高の高い軽ワゴンタイプであり、日常生活におけるタウンユースに最適なパッケージングを特徴としている。
過去にスマートKやケーターハム・セブン170などの輸入軽乗用車が存在しなかったわけではないが、それらはかなりのニッチ市場に向けられたものであり、軽の主力マーケットを狙ったモデルではなかった。
そうした中、BEVメーカーとして認知度急上昇中のBYDから発表された「RACCO(ラッコ)」は、軽の主戦場であるスーパーハイト系にきっちりと焦点を合わせて開発されている。まさに軽市場へ本格参入を果たした唯一の海外メーカーと言えるだろう。
ただし、BYDが展開する多くの乗用車と同様に、パワーユニットはBEVのみの設定だ。
生活圏内の短距離移動を主とする軽乗用車と、航続距離や充電インフラの兼ね合いから短・中距離用途に適すとされるBEVは、本質的に相性が良い。
一方で、限られた車体寸法によるバッテリー積載量の制約やキャビンの実用性確保など、BEVだからこそ厳しい条件も存在する。既存のガソリン軽乗用ラインナップをそう簡単に置き換えられるわけではないが、こうした背景を鑑みれば、BYDの軽BEV市場への参入は大英断であり、同市場への良い刺激となりそうだ。
キャビンスペース自体は、既存のスーパーハイト軽と大きく変わらない。プロポーションも日本のユーザーに見慣れたものであり、運転席や後席に乗り込んでも、視覚的な開放感を含めてスーパーハイト軽の基本に忠実な仕上がりだ。このあたりは「次世代」を過剰に謳うよりも、即戦力としての使い勝手を優先した設計と言える。
親しみやすさと先進感を両立させたデザインが特徴。横一文字に配されたブラックモールとシャープなLEDヘッドライトユニットが印象的で、中央にはBYDロゴが輝く。
テールランプにはフロントと呼応する横一文字の薄型LEDライトバーを採用し、ワイド感と先進性を強調。
軽規格の全長・全幅いっぱいに広げられた箱型フォルムで、高さを活かしたスーパーハイト系ならではのシルエットが際立つ。
軽ハイトの概念を変える、入念な作り込みも光る
一方で、従来の軽乗用車との違いを明確に感じさせる部分もある。これまで軽のステアリング調整といえば上下のチルト機構のみが一般的だったが、ラッコには前後調整が可能なテレスコピック機構も装備された。これにより、ドライビングポジションの自由度が飛躍的に向上している。
また、シートクッションの仕上がりも見どころのひとつだ。試乗したモデルが、シート表皮に合成皮革を用いた「300プレミアム」という影響もあるが、軽乗用車としては座り心地が格段にしっかりしているのが印象的だった。
一般的な軽(特に全高の高いモデル)では、小柄な人の乗降性を考慮してシート端部を柔らかくすることが多い。しかしラッコは、上級クラスと同様に安定感のある座り心地を重視した設計をとる。頻繁に乗り降りするタウンカーとしての評価は使用環境次第だが、チルト&テレスコピックの採用も含め、普通車からのダウンサイザーに、このあたりは大いに歓迎されるはずだ。
開放感にあふれるコクピット周り。左右に広がる水平基調のダッシュボードは、視界の良さと足元空間のゆとりを極限まで追求。
視認性の高いデジタルメーターは、表示パターンを切り替えできるタイプ。
ドライブモードの選択はデジタルメーター部で確認が可能。ドライブモードは「エコ/ノーマル/スポーツ/スノー」の4種類が用意される。
インパネ中央に配置された大型のタッチスクリーンディスプレイ。画面上には「車両画像」「スマート充電」「Apple CarPlay」「Android Auto」といった多様な機能アイコンが整然と並び、スマホ感覚で直感的に操作できる。
チルト&テレスコピック機構を備えたステアリングや、操作系が集約されたセンターパネルなど、ドライビングへの集中と利便性を両立させた設計を採用している。
「300プレミアム」に装備される合成皮革仕立てのフロントシート。厚みと適度なコシがあり、身体をしっかりと支える構造となっている。
広大な足元スペースを確保したリヤシート空間。頭上・膝回りともにフラットで開放的な空間が広がり、大人がゆったりと寛げる広さを実現している。
どっしり感を感じる感覚が新鮮。フットワークは軽の域を超えている
走りの方向性もダウンサイザー志向と言える。BEVはバッテリー搭載による重量増や低重心化設計により、車体寸法は軽規格であっても、物理的な挙動は車格が上のモデルに近くなる。当然、騒音源となるエンジンがないことによる静粛性の高さもアドバンテージだ。
どっしりとした乗り味や収束感の良さがあり、ワインディングロードでも乗員が揺さぶられるような挙動を見せず、終始落ち着いた操縦感覚を提供する。視点を変えれば、軽量小型車らしい軽快感やキレには欠けるが、この重々しさは質の高さや高級感というプラス要素に働くと思う。
WLTCモードでの満充電航続距離は320km。日帰りドライブで少し足を延ばすなら途中で1回程度の急速充電が必要となり、長距離ドライブを積極的に推奨できるわけではない。しかし、居心地の良さや快適性、ハンドリングの面において、ツーリング適性は軽乗用車の中で群を抜いている。
フットワークは軽自動車の域を超える一方で、動力性能はしっかりと軽規格の枠内に収められている。パワースペックは自主規制に準拠したものだ。
低速域での発進や踏み込んだ瞬間のレスポンス、制御の精度には電動車らしさを感じるが、最高出力は47kWのため、速度が高まるにつれて伸び感は鈍くなる。もっとも、これは電動車への過度な期待による印象であり、軽乗用車であることを考えれば必要十分だ。むしろ、ガソリン車のスーパーハイト軽より200kgほど重い車重を感じさせない、低中速域のスムーズな加速特性は賞賛に値する。
なお、ドライブモードは「エコ/ノーマル/スポーツ/スノー」の4種類が用意されている。トラクションコントロール機能を強化するスノーモード以外は好みの問題だが、高負荷時のパワーに余裕がないため、モードによる違いは主に低中速域のペダル操作に対する反応差となる。個人的にはノーマルモードが最も自然なレスポンスを示し、市街地から山岳路まで一番扱いやすく感じられた。
ラッコのラインナップは、バッテリー容量別に22.40kWhの「200」と、35.84kWhの「300プラス」「300プレミアム」の3グレード構成。価格は「200」が214.5万円で、「300プラス」が約25万円高、「300プレミアム」が約35万円高となる。装備や性能に対する価格設定は、上級グレードほどコストパフォーマンスが高く感じられる。
ちなみに、ハイト系軽BEVの日産サクラは約250万円から、2BOX軽BEVのホンダN-ONE e:は約270万円からだ。BEVに求める要素にもよるが、ラッコは買い得感の高さにおいても市場をリードする一台になりそうだ。
| グレード | 価格 | CEV補助金 | 航続距離(WLTC) | バッテリー容量 | 主な特徴 |
| RACCO 200 | 214万5000円 | 15万円 | 210 km | 22.40 kWh | 街乗りに最適、日常使いに十分な充実の基本装備 |
| RACCO 300Plus | 239万8000円 | 320 km | 35.84 kWh | 長距離も安心の大容量バッテリー、先進安全機能拡充 | |
| RACCO 300Premium | 249万7000円 | 320 km | 35.84 kWh | 上質な合成皮革シート、ハンズフリースライドドア等の上級仕様 |
バッテリーを床下に搭載するBEV特有の低重心設計と、しなやかに動く足回りにより、背の高いスーパーハイトワゴンでありながらコーナリング時にもロールが少なく安定した姿勢をキープしやすい。
モーター駆動ならではのシームレスで滑らかな加速と、ガソリン軽乗用車を凌駕する高い静粛性を実現していることも強み。
ボンネット内部に整然と配置された電動パワーユニットと補機類。最高出力47kWを発揮するモーターや制御用インバーター、オレンジ色の配線などが効率的にレイアウトされている。
バックドア開口部は低くワイドに設計されており、重い荷物の積み下ろしにも配慮されている。
急速充電(CHAdeMO)と普通充電に対応。300プレミアムの一充電走行距離は320km。
BYDホームページでは充電時間の目安も確認できる。https://www.byd.com/jp/byd-brand/charging-technology
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(BYD)
日本バス協会への加盟と名古屋営業所の開設 電気自動車(EV)世界大手の日本法人で、商用車事業を手掛けるBYD JAPAN株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:劉学亮)は2026年7月17日、[…]
実質200万切りでガソリン車も狙い撃ち BYDの新型軽EVである「RACCO(ラッコ)」の発表会が2026年7月28日に都内で開催された。 ラッコは、BYDが日本専用に開発した新型モデルになるが、海外[…]
「軽EV専用設計」に加え、堅牢なボディ構造と生産技術を注入 「日本の街並みにジャストサイズな電動モビリティ」として開発されたラッコは、スーパートールワゴン&両側電動スライドドアという王道のパッケージに[…]
「リアトノカバー」を標準装備、3.3万円の価格改定 今回の一部仕様変更では、「BYD SEALION 7」シリーズ全車(後輪駆動・四輪駆動)に、カーゴルームのプライバシー性を高める「リアトノカバー」を[…]
新型「BYD RACCO」を大絶賛! 広瀬さんにとって、今回がなんと人生初の自動車CM 出演となる。 今回のプロモーションでは、車名の「BYD RACCO」とラクを掛け合わせた「ラッコ楽」をキーメッセ[…]
最新の関連記事(BEV)
140年の技術革新を現代の技術で再解釈した新世代モデル 2013年に美しい4ドアクーペとして登場したCLA。2019年の2代目では対話型インフォテインメント「MBUX」がいち早く投入されるなど、常に先[…]
実質200万切りでガソリン車も狙い撃ち BYDの新型軽EVである「RACCO(ラッコ)」の発表会が2026年7月28日に都内で開催された。 ラッコは、BYDが日本専用に開発した新型モデルになるが、海外[…]
「軽EV専用設計」に加え、堅牢なボディ構造と生産技術を注入 「日本の街並みにジャストサイズな電動モビリティ」として開発されたラッコは、スーパートールワゴン&両側電動スライドドアという王道のパッケージに[…]
「軽を買うほどじゃない」「移動の自由を手放したくない」人にぴったり ガソリン代も車両価格も上がり続けるいま、日常のちょっとした移動に頭を悩ませている人は少なくないだろう。買い物や通勤、送迎は距離にすれ[…]
約2ヶ月間で、1962台の受注を獲得 2026年4月に発表された電気自動車(BEV)「トレイルシーカー」は、SUVらしいラギッドな外観と広い荷室を備えるほか、高い直進安定性や軽快な操作性を特徴としてい[…]
人気記事ランキング(全体)
日本バス協会への加盟と名古屋営業所の開設 電気自動車(EV)世界大手の日本法人で、商用車事業を手掛けるBYD JAPAN株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:劉学亮)は2026年7月17日、[…]
国産車出力の天井を定めた「ハイパワー主義」の金字塔 1989年の市場投入を果たした4代目フェアレディZ(Z32型)は、当時の日産自動車が全社を挙げて推進していた「901運動」の思想を如実に体現した1台[…]
坂井海水浴場を目の前に臨むロケーション抜群のRVパーク 「RVパーク BEACH FRONT SAKAI」は、愛知県常滑市の坂井海水浴場を目の前に臨むロケーション抜群の車中泊施設。伊勢湾に沈む美しい夕[…]
マツダ初の本格的な乗用車「R360クーペ」 戦後の日本において、三輪トラックの分野で確固たる地位を築き、日本の復興を力強く支えていた東洋工業(現在のマツダ)が、自動車メーカーとしての本格的な地歩を固め[…]
強力なライバルがひしめくカテゴリーで大健闘 国内で最も競争が激しいと言っても過言ではないコンパクトSUV市場において、日産の新型「キックス」(価格299万9700~424万8200円)が好調な売れ行き[…]
最新の投稿記事(全体)
日本初のペット同伴可能な海外型エンターテインメントモールに併設された車中泊スポット 大阪府岸和田市にある「RVパーク WHATAWON(ワタワン)」は、日本初のペット同伴可能な海外型エンターテインメン[…]
「キックガードは欲しい。でも、車内の雰囲気は崩したくない・・・」 キックガードを選ぶとき、汚れを防げるかどうかはもちろん重要だ。 一方で、最近のクルマはインテリアのデザインや質感にもこだわったモデルが[…]
モデル概要:9年ぶりの全面刷新で「デイリーコンフォート」へ進化 2012年の初代登場以来、マツダのグローバル最量販車種としてブランドを牽引してきたCX-5。2026年5月にフルモデルチェンジした3代目[…]
坂井海水浴場を目の前に臨むロケーション抜群のRVパーク 「RVパーク BEACH FRONT SAKAI」は、愛知県常滑市の坂井海水浴場を目の前に臨むロケーション抜群の車中泊施設。伊勢湾に沈む美しい夕[…]
1位 「こんなクルマがあったの!?」64年前、軽自動車の常識を覆したマツダ・キャロル 今週もっとも読まれたのは、1962年に登場したマツダ「キャロル」を紹介した記事です。 当時のキャロルが掲げたのは、[…]
- 1
- 2
































